思い出(これは犯罪?)

この頁は、俺の山に関する思い出を綴ったものです。
昔の仲間、ゴメンナサイ。

 「アルカポネ」
 ある年の秋。俺達は秘密の場所に集合するよう命令された。
 それは、三十数年前のことである。
 命令されたら、拒絶することは出来ない。
 実行しなければ、従わなければ、消されて、運河や寂しい海岸に捨てられる。
 隠密裏の行動は一人二人と雑踏に紛れ、バスに乗ってその場所にふさわしい服装・持ち物で移動する。
 下車する地点は登山口である。ふさわしい服装とは、登山服・登山靴でありザックを担いで集まる。
 ザックの中身は若干の登山用具とその下に大小のナイロン袋を持って集まように命令されていた。
 紅葉の登山道を歩き、人影がまばらになると、静かに林の中に消えていく。
 一般道から見えなくなる場所に集まる。見覚えの顔があったが、落ち着きがない。予定の時間より少し遅れて、命令されもう少し移動し、上空からはブナ林が俺たちを隠し、尾根が俺たちの姿や音を隠してくれる、広い場所に止また。
 しばらくするとボスが現れた。
 「お前達は、これから半日間、山の中で労働をもって、俺に対する日頃の感謝の気持ちを此処で表せ。」
 「古代から労働を税の代わりに納めた時代があった。それを今、俺はお前達に求めている。」
 すると、それまで俺達のそばにいたTMが、前に回り「ボスの言葉が、よく分かったはずだ。」「労働は極めて簡単な作業だ。」と、指示をする。TMは俺たちに必要な指示をする。ボスは頷いている。
 こうして俺達は、TMの振り回すムチの音に恐れを抱きながら、林の中を奥に奥にと進み、紫に色づいた小さな木の実を集める。
 小さな袋に集め、ザックの中に入れた大きな袋に詰め替えて、また 集める。
 夕方にまた登山口からバスに乗り、巷の中に紛れ込んで身を隠す。
 夜遅く、アジトに三々五々集まっては、荷物を手渡すと、夜の帳に紛れ散っていく。
 こうして集められた、小さな紫の木の実は、アジトの中で静かに時を待つ。電気を消してカーテンを閉め、黙々と作業が続けられる。こうして夜が白々と明ける前には、仲間は眠い目を擦りながらアジトを後にする。
 数週間が過ぎ、極秘の指令でアジトに集められた。瓶に詰められた紫色の何やら怪しい液体を、押入れの中から取り出して俺達のコップに注ぐと、一気に飲ませ毒味をさせられた。
 ボスとTは、俺たちの顔色を見た後、怪しげな液体を飲む。偉そうに「まだ若い、もう少し寝かして見よう。発酵が」等と、訳の分からないことを呟き、また押入れに仕舞い込む。
 12月になると流石にアジトの中も暖房が入る。召集のかかった連中の服装は、小奇麗でさっぱりしたものである。
数週間寝かされたビンは箱詰めされ、昼間堂々と車に積み込まれた。
 秘密裏の仕事は昼間のほうが怪しまれない。堂々とやることである。
 だが小心な俺は、人影に驚き、車を見ては物陰に隠れると。Tは苦々しい顔をする。
 暗い街の中を走り、山中の駐車場に近づくと合図の懐中電灯が揺れる。車が止まると、怪しげな男たちが集まり、ザックに入れ直して、再び密かに別のアジトに運び込むため、暗い道を前進し、山中のアジトの周り1km 以内に人家はない。
 合言葉が交わされ扉が開く。蝋燭の中に複数の男達が蠢いている。
 男達の中に数人の娘がいる。可愛そうに、親元から略奪され、明日は何処かの港から、異国の地に流されるのか可愛そうだが、俺達も少しも変わらない身の上だ。
 戸が閉められ俺達が運び込んだ品物が並ぶ。
 厳かに告げられる。「これは、非政府組織が何処かで造った、禁断の品物だ。有り難く頂こう。」「さあ 皆に注げ。」
娘達は恐々と注いで回った。こうして無法者達の宴は始った。
 俺達は警察の目を逃れて密かに造られたワインモドキを口に運んだ。
 アメリカの暗黒の世界では禁酒令が出され、シカゴのギャング「アルカポネ」と「アンタチャブル」の壮絶な戦いを感じた。
 この小屋も誰かの裏切りで警察の包囲が始まっているのだろうか。
 こんな思い出が残っている。
 ボスは、ワインの知識を若干かじってきては、ワイン造りに精を出したりした。
 ボスが言っていたのは、「ブドウの果実には天然の酵母(野生酵母)が取り付いており、果汁が外に出ることで自然にアルコール発酵が始まる。だから、伝統的な製法では酵母には手を加えない自然発酵が主流であり、それを追求する」と、偉そうにのたまわった。
 とにかくボスは悪戯好きで、ありとあらゆる悪さをした。
 まるで悪餓鬼に知恵が付き手におえなかった。
 それでも奥方の前では借りてきた猫状態だから、奥方のほうが一枚上手だったのだろう。
 ボスのワインは、色付き水でアルコール度も香りも無かった。
 気の抜けたファンタ(コカコーラ社)だったのだ。
 秋になると大山の山葡萄が思い出される。 今年は採取に行きたいものだ。