初めての無反動砲射撃事件
1960年代後半(55年以上前)

75mm無反動砲で私は数名の人の命を奪ったのかも。
監的壕の近くに砲弾を撃ち込んだ。
その壕の中に同期の松井が入っていた。

新隊員教育が終了し、実戦部隊である対戦車隊に配属されたのは昭和40年代9月末である。
当時の対戦車隊は4個小隊で、小隊本部は小隊長(2・3尉)小隊陸曹(1曹)、操縦手(2名)無線手の計5名
小隊は4個分隊で、分隊は106mm砲搭載のジープと分隊車のジープ。分隊員は分隊長(2曹又は3曹)射手(3曹)操縦手(2名の士長)弾薬手(装填手1士または2士)で編成されていた。
対戦車全体で106mm無反動砲は16門。ジープは40数台、中・大型車など50台位の車両部隊で、トレーラーは各分隊装備されていて、全隊員は大型・けん引免許保持者である。
対戦車隊に着隊すると、大型自動車免許取得のため、自動車操縦教育隊に入校を命じられ11月に教育隊の門をくぐった。
2月上旬大型自動車とけん引免許を取得し原隊(対戦車隊)に復帰した。

3月末に対戦車隊のみの演習のため、某演習場に移動した。
ある日の訓練は、無反動砲の実射訓練で106mm無反動砲と75mm無反動砲であった。
106mmは射距離700m以上の固定標的と、時速6キロ~18キロで移動する標的の実射が行われた。移動標的は弾着地の端にある監的壕の隊員が操作する。
車両と砲、隊員は偽装され、数百m離れると容易に発見できないが、実弾が発射されると光と煙、発射時の轟音が響き渡る。砲弾は一瞬後に弾着地の標的を打ち砕く。

75mm無反動砲の実射
午後に私は体験射撃を実施すると命ぜられた。
無反動砲の正式な教育は、まだ受けていないが、砲の整備、手入れの時に少しは砲に触れていた。
某2曹が射撃姿勢や、操法を教えてくれた。
「砲の遊びを右か左に殺して動かないようにして、静かに安全装置を回し、発射装置(砲の引き金
)を、押せ」
弾着地(別名:バックストップ)の端にある、監的壕に数名の隊員が配置し「準備完了」
弾着地(標的)から500m程離れた75mm無反動砲に陣取った。
分隊長から
「分隊、対戦車榴弾、弾着地中央標的、500m、使命(準備し待機)」
分隊員と私は復唱する
「分隊、対戦車榴弾、弾着地中央標的、500m、使命」
装填手は「装填完了」、私も標的に照準し「装填完了・・・準備よし」
数秒遅れて、小隊長、分隊長命令が下る。
「撃て!」
「発射」と引き金を押す。
轟音と共に砲を支えていた手が一瞬軽くなり、照準眼鏡内に、砲口のから炎と煙が・・・。驚き、一瞬眼鏡から目を離したが、すぐに眼鏡を覗く。弾着を確認し次の命令を待つために・・・。
砲弾の爆発(弾着)音がしたが、弾丸の破裂した光と煙は眼鏡の中にない。
思わず眼鏡から目を離し、弾着地を見ると、標的から300m離れた地点に煙が上がっている。
弾着地の監的壕付近に砲弾落下、破裂の印があった。
監的壕から数名の隊員が飛び出してきた。
何故、30度も離れた地点に弾着したのか・・・。
私は、発射した瞬間大きく砲が振れたのを感じた。そして射撃前に教えられた
「砲の遊びを右か左に殺して動かないようにして・・・発射・・・」
それを忠実に実行したため、発射時に砲が無反動状態になり、私が砲尾を右に砲身を左に圧した為に無反動砲の砲口が大きくずれた。
無反動砲は、射撃した瞬間、砲身から飛び出す弾丸と、砲尾(後方)に出るガス圧が同じとなり、大口径の割に砲身、砲架(砲を固定する)が軽く、簡単な大砲である。
砲が軽くなったために左に大きく振れたのだ。
もう少しで、監的壕の数名の命を奪ったかもしれない。
 ● 無反動砲の射撃陣地

 ■ 標的の位置

 ● 弾着位置
  (この近くに監的壕があった)

 地図上の
  ・444 と ・450 の距離
   770m
後日、私はある事実を知った
106mm無反動砲は、直接砲に圧を加えることをしない。
方向のハンドルを手で抑え、上下の微調整ハンドルを指で抑え、手の平で静かに押す。
この遊びを殺すことは106mm無反動砲手が全員が行っている事を、彼が教えてくれたのだ。
彼は75mm無反動砲を撃ったことがなかったのに、私を指導してくれた。
「遊びを右か左に殺せ・・・」
正しくは
砲に力を加えず、静かに・・・暗夜に・・・霜が降る如く・・・
に発射することだった。

対戦車隊のOB会(山椒会)に昨年参加し、昔の仲間に彼の消息を聞いた・・・。
「インスタントコーヒーのブラックは通の味・・・」と言っていた彼はもう天国に旅立った・・・。
彼の名誉のためにその名を秘す。

75mm無反動砲
概 要
1943年、第二次世界大戦中の北アフリカ戦線においてアメリカ軍はドイツ軍のLG40を鹵獲し、これを参考にし、57mm無反動砲と並び、アメリカ軍が配備した最初の無反動砲である。
構造・運用
無反動砲で軽量で反動もほぼないことから、砲架はブローニングM1917重機関銃の三脚架が流用され、また、ジープに搭載しての運用も行われた。
成形炸薬弾を使用しても装甲貫通力は100mmに過ぎず、有効な対戦車火力とは言えなくなっていたため、大口径化された106mm無反動砲、対戦車ミサイルによって代替されて退役した。
日本における運用
日本の陸上自衛隊においても、アメリカ軍よりの供与品を75mm無反動砲として装備し、普通科部隊が保有していた。供与は1951年より開始され、1970 - 1980年代には対戦車ミサイルに置き換えられる形で部隊から引き揚げられ、予備装備となり正式に退役とされたのは1994年。
諸元など
口径: 75mm     砲身長:1,654mm     ライフリング: 右回り(25口径/1回転)
重量: 51.9 kg(砲)    76.1kg(全備重量)    全長: 2,083 mm    初速: 304.8 m/s
有効射程: 約900m   最大射程: 6,400m    発射速度: 10発/分
弾薬: 完全弾薬筒(75×408mm)

106mm無反動砲
概 要
車両上からの車載射撃、車両から降ろしての地上射撃が可能である。照準器はあるものの、再装填に時間がかかる無反動砲という特性上、一発必中を期さねばならず、砲の上に同軸装備されるスポットライフル(口径:12.7mm、全長1,144mm)の曳光標定弾を発射し、砲弾の着弾地点を予想する。
日本における運用
陸上自衛隊では、106mm無反動砲としてライセンス生産された。
主に近距離対戦車兵器として師団対戦車隊、普通科部隊に配備された。
106mm無反動砲は車両搭載による運用が基本。人力による運用も可能である。
装軌車に搭載され、自走砲化された60式自走106mm無反動砲がある。
諸元など
口径: 105mm      砲身長: 3,332.7mm       砲身構造: 特殊鋼製
ライフリング: 36条右回り       重量: 209.5kg(三脚付き)
全長: 3,404 mm     全高: 1,220 mm      初速: 503 m/s
有効射程: 1,100m前後     最大射程: 7,700m      発射速度: 1発/分

75mm無反動砲および106mm無反動砲はウィキペディア(Wikipedia)を参考にしています。