大山の遭難に遭遇した俺の行動を通して山家に送る

遭       難

                        ロウソク沢の女
 蝋燭沢にも、女性が落ちていた。
 今回は、この女性の話の前に導入の部分がある。
 落ちているものは、何でも拾っていくため俺の前にゴミはない。
 俺の後に草も生えていない。
 俺達は 元谷小屋にいた。
 朝から霧が出ていた。
 元谷小屋は俺達だけだった。
 元谷小屋では飲んでいた。
 元谷小屋では何時も飲んでいた。
 元谷小屋では、今日も昼間から飲んでいた。
 元谷小屋では、また今回も朝から飲んでいた。
 元谷の小屋では、一年中朝から晩まで飲んでいた。
 今回は、特別に一嬢が担ぎ上げたコーヒーを飲んでいた。
 市嬢は、特別メニューとしてわざわざ担ぎ上げてくれた。
 それまでの俺は、ネスカフェーのゴールド・ブレンドがコーヒーの王様と思っていた。
 田舎育ちの、私の家ではコーヒーなんてものは、飲んだことがない。見たこともない。
 ネスカフェーの粉のやつしか知らなかった。
 サイフォンで、入れた珈琲なんて、いや豆で入れた珈琲なんて初めて見た。
 そんな俺を哀れんで、市嬢が元谷小屋までサイフォンを持ち上げてくれた。
 霧が流れる元谷。その元谷小屋から、紅葉の落ち葉を見ながら、アルコール・ランプに火を付け、メラメラ揺れる炎を見つめ、至福の一杯を待ちわびていた。

 突然、小屋に男が飛び込んできた。
 男 「助けてください。」
 俺 「俺たちは、男は助けないよ。」
 男 「遭難です」
 俺 「だから 男は助けないって。」
 嬢 「何を言っているの、遭難よ。」
 俺 「ジャー お前だけ行けば。」
 男 「助けるのは、女の人です。」
 俺 「早く言え。俺が行くよ、場所は。」
 男 「小屋の上500m位です。」
 俺 「調度いい位の距離じゃないか。」 
               こんな こんなの会話があって、インスタント救助隊は出発していった。
                        小屋の横の道を走りつつ
 俺 「お前の女か?」
 男 「通りすがりの者です。」
 俺 「それはいい。大変いいことだ。」
 男 「どうしてですか。」
 俺 「黙って、案内しろ。」
                         山下ケルンを過ぎると、もうあえぎだした男をおいて、俺と嬢と数人の仲間と続く。
           蝋燭沢の出会いから少し登った所で、女が落ちていた。
 嬢 「どこが痛いの」
 女 「腹が痛くて」
 嬢 「男の人は、離れていて」
 俺 「何でだョー」
             渋々離れると、お嬢は、小声で聞き始めた。
             俺は、聞き耳を立てて近づいた。
 嬢 「貴方、生理はあるの」
 女 「あります。」
 嬢 「あの人との関係は?」
 女 「知らない人です。」
 嬢 「山! 」 
 俺 「ハァーィ」              と、元気良く。
 嬢 「駐在まで走って、救急車を堰堤か神社の横まで揚げて貰って。」
 俺 「何で俺だよー。俺が抱いて降ろすから。」
 嬢 「いいから早く」   
             そうして、引き離された俺は来た道を引き返して、堰堤から林道へ。
             そして神社と走りに走って、大山寺の集落の急な道を下った。
             駐在には、馴染みの友人「優秀 警察官 鉄氏」が勤務していた。
             俺の姿を見ると、嬉しそうに、拳銃を握りしめ、身構えた。
 鉄 「大山寺から出て行け。撃つぞ」
 俺 「ロウソク沢で、遭難者が出た。救急車を堰堤まで揚げて欲しい」
 鉄 「何でだ。どうしたんだ。お前を撃つぞ。」
 俺 「早くしてくれ。」
 鉄 「オマエ、大山寺から出て行け。撃つぞ」
 俺 「俺もわからん。一嬢が、そう言っている」
 鉄 「一嬢が、早くそれを言え。」
 俺 「ここに居ていいか」
 鉄 「だめだ。大山寺から出ていけ。撃つぞ。」   
             俺は、こうして悠々と駐在所から出ていき、下って来た道を引き返した。
             神社を過ぎ、堰堤に続く林道の道に出てみると、女を連れ下っていくるお嬢達を見つける。
             小躍りしながら、鉄の言った言葉を伝えた。
 嬢 「鉄のやつ、撃てば良かったのに。残念。いい機会だったのに。」
             しばらくすると、救急車が上がって来た。みんなで救急車に女を乗せる。
             嬢は、一言二言救急隊員に話すと、救急車は小石を蹴散らし、林道を下っていく。
 嬢 「あの娘は、盲腸の可能性があるのよ。」
 俺 「でも、生理や男の関係を聞いていたんだろ。」
 嬢 「女の子が、腹が痛いと言ったら、妊娠と盲腸の可能性が高くなるのよ。これ常識」
 こうして、女性は米子の高島病院に運び込まれた。
 後日、友人の駐在所 優秀 警察官鉄氏から「女は盲腸だった。遅れると大変なことになるところだった。」聞いた。