第19話〜 LPとCDの音質について
(2006/08/15)

ジャケット写真

 以前から薄々とは感じていたのだが、アナログ時代の録音をCD化した場合、どうもオリジナルの情報が欠落してしまうようだ。ジャズファンにとっては、ピアノソロの傑作として有名なキースジャレットの「ケルン・コンサート」の場合、LPでははっきりと感じられたホールトーンが、CDではばっさり削り取られているように感じられる。オーケストラの録音だと、楽器ひとつひとつは鮮明に聞こえるのだが、それらが溶け合う様子に乏しい。デジタル化により、ノイズ、歪みが少なくなり、音がすっきり聞こえるのが原因ではないかと思っていたのだが、先日上のLPアルバムをデジタル化していて確信した。CDは音が少ない!

ブルックナー 交響曲第9番ニ短調
ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団
1959年11月16、18日録音
CBS-SONY 15AC 1281

 1970年代後半のアナログ末期に発売されたアルバムで、ミキシング、カッティング技術とも完成された時代のものといえる。録音自体は1959年とステレオ初期のものだが、マスターテープの劣化が少ない時期に、最高の技術でマスタリングされたものと想像される。実際それ以前のCBSのLPと比べて、格段に音質が向上している。約30年前に購入したLPだが、あまり聴き込んだ記憶もなく、したがって盤の劣化は極めて少ない。加えてこの時代のCBSのLPは抜群に盤質が良い。針をおろした瞬間、驚くほど瑞々しい音が書斎に満ちあふれた。

 なぜこのアルバムを取り上げたかというと、この日、同じ指揮者、楽団のブルックナー第7番のCDを買ってきたからだ。こちらは1961年3月の録音。2年あまり後だから、録音の条件はこちらの方が良いはず。しかし音質的にはこの時代の物としては標準的と感じる。特に良いという印象ではない。これまで購入したブルーノ・ワルターのステレオ録音のCDと同等である。

 上記の比較から結論づけられることは

CDのフォーマットでは優れたアナログ録音の音を再現できない!

 LPを48kHz、24ビットでデジタル化しているとき、その周波数特性を見ていると、CDの再生限界を超える24kHzあたりの高音が結構含まれていることに驚く。老化した僕の耳では聞こえるはずもないのだけど、その音が出ているのと、出ていないのでは微妙な音色の違いとなって現れるのだと思う。加えて滑らかなアナログの階調は、階段状のデジタルの階調と比べて、豊かなプレゼンスを表現するのに役立っているのではないか。

 買ってから約30年、録音されてから47年。これまで気付かなかったのもうかつな話だが、こんなに古い録音が、圧倒的な情報量で音楽を伝えてくれることに驚く。低音は気持ちよく伸び、豊かでなめらか。高音はきらきらと輝き、ミューズの微笑みの如くしなやかに響く。我が家の数百枚のLPコレクションの中には、まだ眠っている優秀録音がたくさんあるのかも知れない。


戻る 次のお話へ