ナスカの地上絵
(2000/09/26)
ハチドリ
ペルー(100A.D.〜800A.D.頃)

「絵」というものが、私たちの視覚を通じて、何かを伝え得る文化手段だと定義するならば、南米はペルー共和国に存在する”世界最大の絵画”「ナスカの地上絵」をどう解釈すればよいのか。「絵」でありながら、これほど「見る」概念から遠い、その謎をどう考えればよいのか。幾何学模様や、コンドル、クシグモ、ハチドリなどといった図形は、全様を確認するのに、実に300mの高さを必要とするものさえ有るのです。

1927年、ペルーの考古学者フリオ・テーヨは、入り組んだ線や幾何学的な図形の位置部を見出してはいました。しかしながら、地上で見る限り何を表しているのかは判らず、1936年、ロングアイランド大学歴史学部のポール・コソック教授が、灌漑事業調査のためペルー南部上空を飛行中に、この不思議なラインが砂漠表面に描かれた巨大な図柄であることを発見します。

この地上絵が作成された年代は2000年ほど前、紀元100年頃から数百年間栄えた
−彩色されたユーモラスな土器や精密に織り上げられた布などで知られる−ナスカ文明時代になります。(1952年に地上絵に残されていた木片を放射性炭素方法で測定し、年代を割り出した。またハチドリやシャチのモチーフは、ナスカ土器の表面にあらわれた絵柄と類似していることからからも裏付けられている)

1973年国際探検協会のジム・ウッドマンは、土器の模様に気球と類似したものがあったことから、布に注目しました。分析の結果では驚くことに軍事用パラシュートを凌ぐ緻密さで織り上げられているという、それを用いて、当時の技術でも熱気球を作ったのではないかと考えたのです。実際、実験では130mまで飛ばすことが可能であったといいます。気球により、偉大な王族を空へと送り出す形で葬儀が行われ、そして、その手向けとして描かれたのが、地上絵である。これが彼の唱えた説です。しかしながら、この説もまだ仮説であり、謎を解明するには至っておりません。

他に、興味深いものとしては地上絵の直線が重要な時節の太陽の位置と合致することから、暦であるとする説。豊穣を神に祈るための、宗教的儀式説。また、宇宙人に対するメッセージ若しくは目印であるとする、UFO滑走路説など諸説紛々です。

いずれにせよ、幾星霜の太古に、私たちの思いを馳せさせる、この謎めいた巨大な絵画は、古代の人々から託された、大いなる「文化」と言う名の贈り物であると思うのです。

WEB美術館学芸員
へんりー

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