不思議な空気がやってきた
第1話 花粉の季節
(1997/04/30作成)
1995年の春、わが家に大きな木製の箱が到着した。まるでロッカーのような図体にちいさな吹出口、その名もフレッシュ・エンジェル。これが家内の花粉症対策の最終兵器である。花粉を水で洗い流し、清浄な空気を供給するためのクリーン・エア・プロセッサ、わが家をクリーンルーム注1に変えてしまおうという壮大な実験がここにスタートした。
水の都広島市も、近年は大気汚染が進み、空気には恵まれているとは言いがたい。中国支店のあるビルも、交通量の多い大交差点に面しているため、取り入れた外気の方が汚い、という深刻な状況にある。それが原因かどうかは不明だが、どうも、我が一家は呼吸器系に弱点があるらしく、しょっちゅう耳鼻咽喉科のお世話になっている。とりわけ家内の花粉症は深刻で、夜も寝られず苦しんでいるようだ。
実はこのシステム、7年ほど前から国立長野病院で喘息治療のために導入されており、気管支喘息、慢性気管支炎、風邪の治療に有効であることが確認されていた。ネブライザー注2という呼吸器治療機械があるが、部屋全体をネブライザーにしてしまおうと言う訳だ。わたしはこのシステムが、原理的に花粉症対策に効果があると直感し、狭い家に何とかスペースを確保して、設置することにした。
効果の程はと言えば、2、3日も使っている内に「どうも家の中にいる内は調子がいいみたい。」と宣う。次には「寝室にも欲しいね。」と言い始めた。顕著な治療効果を示しつつも、花粉症の季節は過ぎて梅雨となり、フレッシュ・エンジェルは休眠期間に入った。
どんな物かと問う読者の方に、今はエア・ワッシャー空調機注3を小さくしたものと答えておこう。水と空気を接触させて、洗浄、加湿を行うシステムと理解しておいて頂きたい。
そうする内にさわやかな秋も過ぎ、「風邪の季節」冬へと突入した。家族が最も苦しむ季節である。ここでわが家の空調システムを説明しておこう。この機械は12畳のLDKに置かれており、空調用に3.2kwのインバータエアコン、それに壁付きのロスナイ換気扇が設置されている。石油ストーブ、ファンヒータ類は使っていない。相当な乾燥状態であったことはご理解頂けると思う。
暖房シーズンに入って一月あまり、顕著な効果が表れ始めた。まず、誰も風邪をひかなくなった。家族全体の弱点であった鼻や喉の不調を訴えない。お肌がつるつるしてきた。
このシステムは送風用に高圧ブロアを用いているため、相当にうるさいのであるが注4、誰も文句を言わない。水のとりかえ、補給を手動で行わなければならないが(その頻度は一日2回程、6リットル程度)その重労働をだれもが厭わなくなった。
現在わが家の空調条件は、温度20゚C、湿度60〜70%、室内清浄、無臭、きわめて快適な条件にある。さあ、そろそろ風に乗って花粉が飛んでくる季節だ。
次回はもう少し理論的な話などを。
1997年 今年の成果
昨年は花粉の飛散が少なかったこともあり、ずいぶんと楽だったようだ。今年は2月後半から大量の花粉が襲来し、フレッシュエンジェルもフル稼働していた。しかし家内は「今年は効かない」という。部屋に中にいても鼻が詰まるという。しかし「夜眠れないほどか」と聞けばそんなことはないという。「じゃあ、効いてるんじゃないか」と問えば黙ってうなずく。そうするうちに今年の花粉のシーズンも過ぎていった。
注1 半導体の製造工場や病院の手術室のように、室内を高度に清浄に保った部屋のこと。
注2 高湿度の空気を患者に吸引させて、喉の痛みを抑える医療器械。
注3 水を蒸発させることにより、まわりの空気の温度を下げる効果を持った空調機械。
注4 最近の機器はずいぶんと静かになっています。
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