質感のあるタッチで置かれた色彩は、その存在をはっきりと主張し、それでいながら互いを引き立てあい、調和しています。
カンディンスキーの絵は、目で聴く音楽です。
色と音はつながっている。それは、アイザック・ニュートン卿のような科学者達の好奇心をも刺激して研究され、長い歴史を持つ概念でもあります。
音楽的な絵画表現とは即興的で、一つ一つのモティーフ、また色においてもそれぞれが意味を持ち何かを象徴している絵画…宗教画などに見られるような…『考える絵』とは対極の、見る者の感性に直接訴えかけてくる…琴線に響くという表現の相応しい…『感じる絵』だと言えるのかもしれません。
1866年にモスクワで生まれたカンディンスキーは、1886年モスクワ大学に入学し経済学と法律を学んでいましたが、1896年モネの「積み藁」に衝撃を受け、ドルパート大学の招聘を辞退してミュンヘンで絵画を学び始めます。
全く畑違いといえる分野に、これほどの才能を発揮したその感覚の形成には、彼の両親、彼共に幼少時から音楽に慣れ親しんだ(両親はピアノやツィターの、彼自身はピアノ、チェロの優れた弾き手でありました)ことも深く関わっているのでしょう。
1933年ナチスの台頭でフランスに亡命することを余儀なくされながらも、晩年まで、緩まない探究心を持ちつづけ、新しい形式を求めた彼の心の中では、どのような色がどのような音色を奏でていたのでしょうか。聞いてみたい気が致します。