既視感という言葉がございます。初めて見る風景なのに、どこかで見たことのあるような……
懐かしいという思い。ワイエスは、私たちをそういう世界に引き込んでいきます。
海に向けて開け放たれている窓から吹き込んでくる風。紗のカーテンが揺れて、潮の香りがする。打ち寄せる波は静かで、まどろみを誘うようなリズムを繰り返す。
特別ではなく、ごく日常的な、それでいて、ずっと心に残っている風景。
穏やかで、少しもの悲しい世界は郷愁にも似て、彼の絵を目にする多くの人々に、包み込むような“帰ることの出来る場所”を与えているような気がいたします。
画家の優しい視線を思わずに入られない作品かと存じます。