音を媒介としない絵画であっても、見る者に声さえ聞こえてきそうなこの版画は、うねるように強烈な画面を作り出し、作者ムンクの名を忘れがたいものとさせています。
自然主義・印象主義に対する反動から生まれた表現主義の先駆者であった彼は、この絵について「ある夕方、私は道を歩いていた。片側は市街で、眼下にフィヨルドが広がっていた。私は疲れて気分がすぐれなかった。・・・陽が沈んでいくところで、雲が血のように赤く染まった。私は自然をつらぬく叫びを聞いたように思った。私はこの絵を描いた。雲を本当の血の色で描いた。色が叫んでいた」という註釈をつけています。
日常にぽっかりと空いた「トワイライトゾーン」に落ち込んでしまったような、悲劇的な叫びの表現。
ストレス社会と呼ばれる現代、みんなどこかに積もり積もった「叫び」の感情を隠しているのかもしれません。
ムンクの聞いた「自然をつらぬく叫び」とは、一体どのようなものであったのだろうと、ふと考えてしまった次第でございます。