ピーター・ブリューゲル。彼はある時期農民の出とされていましたが、近年の調査で都会に育ったインテリであったと云われております。
この「ネーデルランドの諺」は、彼らしい優しく明るい色使いで描かれた作品ですが、一つ一つのモチーフは、絵の題が示すとおりネーデルランドに伝わる様々な諺・・・悪行や愚考、倒錯といった罪深い行為に満ちた世界を表し、、大変に批判的な作品となっています。
一つ例を挙げてみますと、例えば中央部には「夫に青いマントを着せる」妻の姿があります。本来"青"は"知性・真実"を表す色なのですが、ここではそれを逆にとった"欺瞞"の象徴・・・つまり夫に不貞を働く妻の姿であるという解釈になります。
丁度、シャルル・ペローの「長靴を履いた猫」が「知者の助言を得て、富と地位を手にする、善良な人物の成功譚」の形を取りながら、実は「たとえそれが猫であれ長靴(ブーツは、当時貴族の象徴であった)を履いていさえすれば、高位の者としてとらえる、民衆の愚かさ」を風刺した物語、であったように、ブリューゲルの作品の中には、明るい作風の中に毒をもった針を思わせる、辛辣で皮肉な感覚を伺わせるものがあります。
「農民のブリューゲル」として知られ、農夫の姿に変装して、その中に入っていくことすらあったと云われた彼が、何故そのような絵を描いたのか。
これは私感として・・・ですが、ブリューゲルは本当に農民を愛した画家であったのではないかと思います。知的階級に属した彼は、彼らを好きであればこそ、無知からくる行為に、搾取されるのみの生活を送り続けるのを、もどかしい思いで見つめ「自らの姿を見よ。そして気付きなさい」と警告していたような気がするのです。