日常の中の慎ましい穏やかさ…それは窓辺で僅かに首を傾けて手紙を読む姿であったり、楽器を繊細な指先でつま弾く様子であったりしますが…17世紀の画家ヤン・フェルメールの描く女性たちは、仄かな光の動きと色彩の調和の中、微笑を浮かべてそっとたたずんでいます。彼の描く作品は、時に宗教的な祈りの気持ちが込められているのかと思えるほどに静謐で優しいものでございます。
フェルメールが生涯をかけて残した35点の絵の中でも、この「真珠の耳飾りの女」は印象的な作品であると言えるでしょう。
視線を伏せ、何かに没頭する姿を描くことが多かったフェルメールですが、この少女は、澄んだ大きな瞳で、まっすぐに視線を投げかけています。少女のモデルは、若くして逝ったフェルメール自身の娘ではないかと言われております。
目を閉じると浮かんでくる、在りし日の娘の生き生きとした表情。その本当に美しい一瞬を見事に描き出した彼の筆は、哀切で、慈愛に満ちたものになっています。
レンブラントと並び17世紀オランダを代表する画家でありながら、19世紀後半に至るまで真価が認められなかったフェルメールですが、心底愛しいものだけを描いていった彼にとって、地位や名声は無用のものであったのかもしれません。