今回「ナイト・ホークス」を選んだ起因は、実際に絵に触れて感慨深いものであったという事ではなく、本の中の記述から興味を持った事によります。
現代アメリカを代表するハードボイルド作家マイクル・コナリー。彼の代表作として、ハリー・ボッシュ、正確にはヒエロニムス・ボッシュという名を持つ刑事のシリーズがございます。この作品で重要なファクターとなってくる2枚の絵の内、1枚は彼の名から類推出来ますとおり「悦楽の園」であり、もう1枚が、コナリーの処女作の題名でもある「ナイト・ホークス」です。
「ナイト・ホークス」は「夜更かしする人々」であり、そして「孤独な夜の鷹(一匹狼的な言葉)」という意味をも内包しています。街の片隅の酒場のカウンターで夜を過ごす人々、白々とした照明が通りを照らし、どこか寂莫とした風景。癒しようの無い都会の孤独感。
陽気なアメリカの別の顔。巨大な都市に住まう人々の無言の切なさを、静かに描いたホッパーの世界は、コナリーの創作したボッシュ刑事の横顔に、深い陰影を与え、その人物像をくっきりと浮かび上がらせているのだと思います。