白いチュニックに青い衣をまとい、悪魔の象徴である月を踏み、天使の加護を受けるマリア。
17世紀スペインを代表する画家ムリリョの描く「無原罪の御宿り」のマリアは、澄んだ瞳で天の高みを仰ぐ、優しい少女のような姿をしています。
スペイン黄金時代も輝きを失いつつあり、相次ぐ飢饉、ペストの大流行などの時代の暗きに、また、キリスト教の中でも、新旧教の対立による信仰への惑い。(ムリリョの描いた宗教画の多くも、旧教の立場をとる国家の宗教画の刷新急務などの背景を持ちます)不安と困惑の中に生きた民衆から、彼の絵画が支持を受けたのも、人の心を和ませるような無垢で満ち足りた表情に、救いを感じたからかもしれません。
ムリリョ自身、5人の子供を幼くして亡くした一人の父親でもありました。
一説には、マリアのモデルは、生まれつき耳が聞こえず、15歳で修道院に入ったムリリョの娘フランシスカだとも言われています。
彼自身もまた、描くことによって、苦しい時代の中にひとすじの光にも似た救いを求めていたような気がいたします。