岡倉天心に師事し、日本美術院の設立に尽力した菱田春草は、横山大観、下村観山らとともに「朦朧体」と呼ばれる輪郭線を廃した画法など、日本画の表現に新たな可能性を導いた人物です。
惜しくも37歳にして亡くなってしまったため、大観ほどの名声は得られていないのですが、完成度の高い作品を残しました。
この「黒き猫」は、第四回文展に出品するために、当時眼病を患っていた彼が、それまで出品を考えて作成されていたものを放棄した後に、ほんの一週間足らずで描かれたということに驚かされます。
写実と装飾の調和も美しい、日本絵画史に燦然と輝く春草の代表作です。………と、解説はこのくらいに致しまして。
これは、これは。
この柏の枝に蹲っている生き物は。
まるっこいではありませんか。毛並みがふわふわではありませんか。
ぽわんぽわんやわらかそうで、それでいてしなやかではありませんか。
背中を向けている間に、うにゃあとどこからか鳴き声がするかもしれません。
夜中にふわりと抜け出して、にゅううっと伸びをするかもしれません。
春草先生、この子触ってもいいですか?
そんなことを真顔で聞きたくなりますような、なんとまあ、猫らしい猫でありましょうことか。