一九世紀末 、イギリス・ベルギー・フランスに興った、華麗で装飾的な芸術の新様式アール‐ヌーヴォー(「新しい芸術」の意) は、ドイツ・オーストリアに波及し、ユーゲント‐シュティールと呼ばれました。
オーストリアの画家クリムトは1897年、ウィーン分離派を結成し、ミュシャやガレの持つ優美さとはまた違った、世紀末的と表現される世界を作り出しました。
この「接吻」は、クリムト「黄金様式」の時期の最高傑作で、ジャポニスムの影響が多大であるという点でも注目される作品です。金銀の箔を施し花をあしらった画面は、ひとつ間違えれば華美に過ぎて下品にもなりかねませんが、押さえられた色彩と、計算された構図によって「退廃的な美」を描き出しています。
宗教的な「崇高の愛」ではなく、官能的で力強い、感情に身をまかせる人間としての「情愛」を見事に表現しており、圧倒的な迫力で見るものをはっとさせる作品かと存じます。