序の舞
上村松園
序の舞
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『序の舞』(1936)
上村松園 (1875-1949)
東京芸術大学所蔵

2003年の9月、上村松園の作品を集めた展覧会が広島県立美術館で開催されている。美人画というと江戸時代の浮世絵がはしりかと思うのだが、松園のそれは実に繊細で精緻であり、かんざしや鹿子の浮き出てくるような表現は圧倒的でさえある。ただ数十年にわたって描き続けた美女たちは、えてして画一的であり、手慣れた晩年の作品はマンネリに陥っているんじゃないかと思わせるところもあった。

その中で一点、媚びることなく凛とした立ち姿を見せていたのがこの作品。左手を軽く結び、扇をかざした右手越しに一点を見据えている表情はきりりとして美しい。以前は「舞」と名付けてる割には動きの乏しい絵だなぁと思っていたのだが、「序の舞」というのは本来そういう舞らしいのだ。

と、ここまで書いてふと気づいた。右腕の袖を見ていただきたい。長い袖を返すほどの激しい動きが直前にあったはずだ。この作品は扇一閃、動から静への一瞬の変化を描いたものなのかもしれない。そう思って見ると、こちらの息も止まってしまいそうになる。

WEB美術館館長
Summy

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