1999年の春、島根県立美術館の開館記念展として『水の物語』という展覧会が開催された。『水』をテーマとした多くの作品の中で、とりわけ印象に残ったのがこの作品。
ギリシャ神話『オデュッセイア』にも登場する美貌の魔女キルケ。海の神グラコウスに恋をしてしまったのだが、当のグラコウスはスキュラという美少女にご執心。
嫉妬に狂ったキルケは、スキュラがいつも水浴する場所に毒薬を注ぎ込む。そうとは知らず腰まで水に浸かってしまったスキュラは、下半身が六頭の犬の上半身が絡み合った形の怪物に変えられてしまったというお話なのです。
ウォーターハウスのこの作品では、魔女キルケが怪魚の背に乗り、水面に毒薬を注ぎ込む様子が描かれています。深い緑に沈み込んだ水面。胸の前に大きなガラス盆をかざし、なにやら念じながらじっと盆を見つめるキルケの嫉妬に燃える眼差し。もしかしたら、足下の怪魚も以前この薬で魚に姿を変えられた人間なのかもしれません。