俯瞰から、まるでパノラマを見渡すような光景、
白い霧に包まれ、それは石畳、建物の色と相まって、灰色がかって寒色の勝った画面を構成しています。
通りを、広場をゆく人々は、画家が見知った人でない、おそらく挨拶さえ交わしたこともない人たちだったことでしょう。
それなのに、この絵からもたらされる雰囲気は決して冷たくはなく、むしろ暖かく感じられます。
「スモーク」と云う映画の中で、いつも決まった時間になると店の前の通りの写真を撮るのを、長きにわたって日課にしている男性が出てくるのを、ふと思い出しました。
彼らに共通しているのは、その風景が好きなのだろうと云うこと。
変わらないようで、少しずつ訪れる変化を感じ取りながら、雑踏を見つめる優しい眼がそこにはある、そんなことを考えました。
館長注:今回この作品を取り上げるに当たり、mariさんにご協力いただきました。ピサロは、この連作に関して、雑踏を描くというよりは、とても静かな空間を描くことに専念していたように感じられます。
綿密に計算された水平線と垂直線の効果が、よりいっそうの静的空間の演出に役立っているように思います。・・・mariさんこの連作について、次回はmariさんの解説を読んでみたいものです。