サビエルのふところにて

■キーワード/大空間空調 暑熱対策
 建物名 サビエル記念聖堂
 所在地 山口県山口市
 空調対象面積 412m2
 空調方式 GHP28kw x2台 床置ノズル吹出型

【フランシスコ・サビエル】
(1506年4月7日〜1552年12月3日)

 イエズス会創立者の一人、フランシスコ・サビエル(1506−52)は、来日した初の宣教師として有名である。1534年、イグナチウス・デ・ロヨラらと共にイエズス会を設立後、ポルトガル王の要請に応じ、1549年から日本で布教活動を開始し、51年11月まで2年3ヶ月滞在した。山口・府内(大分)などで布教したのち、中国広東の地で客死した。1622年には聖人の列に加えられた。

サビエル記念聖堂全景

 旧サビエル記念聖堂は、1951年サビエル来訪400年を記念し建設された、ロマネスク様式の美しい教会であったが、残念なことに1991年9月失火により焼失した。
 1998年4月に再建された、イタリア人のデザインになる斬新な聖堂は、日本の過酷な夏を知ってか知らずか、床暖房こそあるものの、冷房設備が設置されていなかった。真夏ともなれば聖堂内の温度は40℃近くまで上昇し、ミサやパイプオルガンの演奏会に支障を来すほどであった。

「せめて30℃以下に室内温度を下げたい。」
暑熱に悩むユーザーの希望としては、大体このあたりである。
空調時に発生する運転音については、
「ミサやパイプオルガンの演奏会の時は、予め冷しておいて、その間は冷房を停止してもやむを得ない。」
 ご存じのように、教会建築は残響時間が一般の建築物よりはるかに長いため、小さな音でも聖堂全体に届いてしまうという特性がある。

 実は私の出身校はイエズス会系のカトリック校であり、サビエルとはなじみが深い。加えて旧聖堂が焼失した1991年、家族でこの地を訪れている。それから8年の後、その冷房整備のために私が呼ばれた。「お導き」としか言いようがあるまい。
 空調方式としては、当初床暖房用に敷設された管内に冷水を通し、床面輻射冷房を行うことも検討した。ただ必要能力を賄うためには、通常の送風による冷房を併用する必要が有り、イニシャルコスト面から断念せざるを得なかった。

パイプオルガンと設置した空調機
パイプオルガンと空調機(1) パイプオルガンと空調機(2)

 採用した空調方式は、パイプオルガンの両サイドにパッケージ型空調機を配し、ダクトを介さずノズルで送風する方法である。室内機形式は天井隠蔽ダクト型28kwを2台、消音BOX内に床置設置した。室外機熱源は、下階展示室空調に合わせてガスヒートポンプとした。天井隠蔽ダクト型とした理由は、床置型室内機より送風機動力が小さく、発生騒音が低いことにある。ノズル型吹出口を採用するため静圧損失が少なく、これでも十分な風量を確保できる。

 聖堂の天井高12mに対し、ノズルの設置高さ約5m。したがって屋根面より7mまでは非空調域とし、温度成層を形成することを狙った。
 大空間空調を成功させる秘訣の一つとして、非空調域の空気をむやみにかき混ぜないことがある。40℃以上になる天井近くの高温域と30℃以下の中温域とを明確に区分する空調方式が有効となる。

 竣工した1999年の夏、施工担当者のA君と現地に測定に出かけた。外気温は32℃程度、炎天下というほどではないが、よく晴れた日だった。運転開始後3時間ほど待ち、聖堂内各点の温度を測定したところ、ほぼ25〜26℃の範囲にあり、当初目標とした30℃は楽にクリアしていた。騒音値はNC30を下回り、パイプオルガンの演奏にも支障はなさそうだ。受付の女性に聞いてみたところ、「とっても静かですよ。演奏中でもミサの間でも全く音は気になりません。」
 耳を澄ませると、運転音と言うより風のそよぐ音がかすかに聞える。施工したA君が自信に満ちた顔でこちらを見ている。どうやら彼にとっても会心の出来映えらしい。祭壇に目をやると、5本のロウソクの炎が、ゆらゆらと風に揺れていた。

注)聖堂内の写真撮影は原則として禁止されていますが、
ここで掲載している写真は業務目的ということで、特別に許可を得て撮影しております。

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