はじめに
ことの起こりは、3年程前私が蚕の無菌飼育のプラントに関わりを持ったことから始まります。
蚕は通常桑の葉で飼育されますので、桑の葉が手に入る時期しか飼育することが出来ませんでした。それを人工飼料を用い、恒温恒湿の部屋で飼育することにより、年間を通じて蚕を飼育することを可能にしました。それと同時に無菌環境(クリーンルーム)で飼育することにより、蚕の病気、飼料の腐敗を防止することに努めました。
桑の葉はそれ自体相当の水分量を含有しているために、部屋の湿度については、それほど注意を払う必要はないのですが、人工飼料を用いる場合、比較的飼料が乾燥しやすい条件にあります。飼料が乾燥しますと、蚕の食い付きが悪くなるために、湿度については生育時期にもよりますけど、70〜90%に保つ必要があります。
ご存じのように、空調というのは冷房時に除湿作用があるために、冷房を行いながら湿度を高く保つというのは結構技術的には困難な命題であるわけです。
その時には通常の空調システムで計画したわけですが、次のプラントの計画にあたりこれからご紹介する真気システムに着目しています。
空気と水の関係について
空気というのは、自然界ではいくらかの水分を含有した形で存在します。いわゆる湿り空気と呼ばれるものですが、その水分含有量の割合を湿度と呼びます。生物にとってそれぞれ快適な湿度というのがあるわけです。人間の場合通常50%で快適と感じる場合が多いようですけど、植物あたりですともっと多湿の環境を好むものも多いようです。
現在私の注目している真気というのは、通常の水と空気の関係とは違い、空気中に水分が微細粒子の形で浮遊している状態をいいます。空気中で微細水滴が分裂するとき、水の粒子は活性化し、その周りの空気はマイナスイオン化した状態になります。これをレナード効果(滝効果)と呼びます。この活性化した水滴が、空気中に浮遊する塵埃、細菌、および臭いなどを除去する効果が知られています。この状態では空気マイナスイオン化された状態にあり、それのもたらす効果が注目を集め現在研究の対象になっているところです。
先の蚕の例で言えば、この空気の清浄効果と水滴による加湿効果が同時に得られるために最適な技術ではないかと着目したわけです。
真気技術とは
このサブミクロン単位の活性化した微細水滴が空気中に存在し、その空気がマイナスイオン化した状態を真気と呼びます。この発生装置と言うのが極めてシンプルな構造をしております。
円筒型の容器の中で空気を高速に旋回させ、水をその中にノズルで噴射させるだけです。自然界では台風の目というのがこれと同じ原理となります。台風一過といって空気のさわやかな状態を言い表しますけれど、これと同じことを人工的に再現しようと言うわけです。塵埃等を取り込んだ水滴は気水分離機で除去され、ごく微細な水滴とマイナスイオンを大量に含んだ清浄な空気が供給されます。
私はこの中で、活性化した水滴に着目したわけですけど、生物学的にはむしろその水滴によって生成されるマイナスイオン化した空気に注目が集まっているようです。マイナスイオンの人体および生物に与える影響というのは、いまだ解明されていない部分が多いのですが、少なくとも通常よりよい影響を与えると考えられています。国立長野病院においては、この技術を気管支喘息治療に用い効果を上げていると聞いています。
空調技術的には、現在クリーンルームと呼ばれているものの多くはこの技術に置き換えることが可能と考えています。HEPAフィルターを通過した空気は、確かに清浄ではありますけれど、それで除去不可能な物質も有ることが知られています。半導体製造にはもっとも有害と考えられている空気中のナトリウムイオンなどがその例です。真気技術を用いればそういったものも除去することが可能です。
このシステムを食品関連の製造、保存工程に導入されている例がありますが、その原理的になるほどもっともだと肯かせるものがあります。
医療分野への応用としては、その空気清浄性、臭いの除去性能、マイナスイオンの効果等を考えれば、病院全体をこのシステムでやってしまえば、と考えてしまうほどに魅力があります。
自然にやさしい技術
われわれ日本人は、ここ百年間ほど西洋に追い付け追い越せで、しゃにむに西洋技術に取り組んできたわけです。空調技術などはまさに西洋技術の典型といえるものです。
ところが、いまこの真気技術に触れて振り返ってみますと、この西洋技術というのは、いわば力任せの技術というふうに感じられます。空調の例で言えば、大量のエネルギーを消費して、空気を冷やしたり暖めたり、空気をきれいにするために、多量の空気を目の細かいフィルターを通して押し込んだりと、われわれ日本人が古来から庭に打ち水をして涼を得るといったような、自然と仲良くやっていこうというような姿勢は感じられません。
いままで我々空調技術者は「空気の質」について、温湿度が一定であるとか、炭酸ガス濃度が低いとか、粉塵の度合が低いとか、現在の技術で測定可能なファクターのみに目を向けて来ましたけれど、本来何のために空調をするのかと考えてみますと、そこで生活するものにとって、快適で健康的な環境を提供することこそ重要ではないかと最近感じはじめています。
この点において、真気技術は自然にやさしい技術といえる資格を備えているのかも知れません。