私は、水島協同病院のC/S型システムの管理者(他の事務業務と兼任)ですが、これまで自己の趣味でBASICのプログラミング(MZ80B時代から)やINFORMIXでのDATABASEシステム(V30時代から)で、病院等の様々な業務システムを構築してきました。
その業務システムのノウハウはこの度のWindowsNTでの病院情報処理システム構築に引き継がれるとともに、小回りの良さから廃止せずに活用されているシステムもあります。
私自身は、マイコン・パソコン時代にプログラミングのロジック構築の楽しさ(苦悩)もたっぷり味わってきましたが、主要には「病院では、価値あるいは商品としての医療サ−ビスは、様々な情報の集中・集積とその分析から医療サ−ビスとして生産されており、サ−ビスの質を高め付加価値をより多く能率的かつ合理的に生産する鍵は、情報の処理様式によって規定される」ので「どの様に情報処理システム化(ソフト・ハ−ド両面で)をおこなうのが、望ましいのか」というスタンスで常に検討してきました。
そのためありがたいことにUNIXなどにものめり込まずに、自己の身につけたソフトウエア技術で、自己暗示にかかるということもなく、この度の病院情報処理システム構築を、コストパフォ−マンスの良いC/S型で進めることができました。
その過程で、あえてSEを採用しなくても、病院情報処理システムを構築し、稼働させることができる、と方針を決めて作業を進めました。
なぜなのか、以下に述べてみます。
これは、とある病院組織の97年度の全国会議での「問題提起」に対する私の意見陳述ですが、ここにSEを絶対に必要であるとはしない理由がほとんど網羅されていますので、採録します。
「問題提起」そのものが長大文章なので採録できませんので、一方的で理解しにくいと思いますが、ご容赦下さい。
問題提起のはじめにの部分で「近年のマルチメディア化にともなう機械の格段の進歩と、医療費抑制策に誘導された形での機械化、情報システム化は・・・業務の改善・合理化は避けて通ることのできない課題となっています。」とかかれています。
正確さに欠けるために本質的な問題が認識できない記述と考えられます。
「マルチメディア化にともなう機械の進歩」という表現は、一面ではなにか解った様な表現ですが、正確な技術発展の認識評価と今後の対応の方針を誤らしかねません。
コンピュ−タ−の技術、特にUNIXも含むパ−ソナルコンピュ−タ−(以下PCと略す)技術とそれに伴うソフトウエア技術は、オ−プンシステムという技術的特徴により大衆的巨大市場をうみだし、その市場要求に応える商品開発のなかで、全世界的規模でのソフトウエア技術革新競争の結果としてPCのマルチメデイァ技術が今日劇的な発展をすることとなりました。
その結果、これまでは医療情報として対処困難であった画像やチャ−トなども医療情報システムでの処理が可能となり、技術的には、電子カルテが展望できることとなってきたわけです。
論理の考え方の根本として、オ−プンシステムを基盤とするコンピユ−タ−技術の大衆化が、新しい技術発展のエネルギ−源となっているという見方が大切であり、そうであるならば、「大衆化・オ−プン化という視点を大切にして技術発展の将来を展望し、それに対応した方針を持とう」という方向性が、意図的に論旨を展開しなくても理解されるベ−スになると考えられますので検討下さい。
ついで「こうした技術発展と医療費抑制策に誘導された形で、業務改善と合理化が避けてとおれない」という論旨かと読めますが、技術発展にともなう業務改善と合理化は、労働負荷の軽減やコストダウンの側面から評価するならば、積極的に実現すべき課題であって、「避けて通る」様な位置づけとなる論理は、誤解を招く表現と思われます。(たしかに、汎用機システムの技術レベルからみるならば、マルチメディア技術の発展に遅れをとっており、対処できなければ市場が先細りとなることは目に見えており、避けて通れない課題となっていますが。)
進歩発展する技術をどの様に現実に適用するかは、階級的立場の違いが前面に明らかとなって実現します。
従って、我々は「避けて通る」という見方でなく、医療労働の現場で、労働負荷軽減とコストダウン、患者サ−ビスの向上と情報の共有による民主的な医療活動の充実向上を実現し、医療費抑制策に誘導された(貧困な)形にならないように、階級的立場から、積極的に取り組むべき課題と論旨を鮮明にすべきと考えますが、いかがでしょうか。
問題提起の「情報システム化の動向と民医連の活用状況」では「医療行為そのものが・・・画一化できないものであること・・・・コンピュ−タ−そのものがこれらの行為を扱うには不十分なものであった・・・」と論じられていますが、不正確と思われます。
「画一化できない」という表現は、「画一化しないとコンピユ−タ−による情報処理ができない」という考え方での論理とおもわれますが、もしそうとするならば「一般的には従来の汎用型コンピュ−タ−技術による医療情報処理システムでは」と前提を明確にしないと、「マルチメディア化・・進歩」などど問題提起の「はじめに」で記述した部分と矛盾となります。
「コンピュ−タ−そのものがこれらの医療・・・・」部分での「そのもの」とは何を意味するのでしょうか。
「そのもの」がコンピユ−タ−のハ−ドウエア(技術も含めて)を意味するとしたら、全くコンピュ−タ−技術についての理解がないことは、明らかです。
「コンピュ−タ−、ソフトがなければただの箱」ですから。
ですから、ソフト技術として考えてみるならば、「一般的には、つまり軍事ソフト技術や特別な研究用のソフト技術をのぞいては、従来からの汎用機ソフトウエアは、様々な医療情報を処理するのには不十分なものであった」とせねば、今日の情報処理技術の発展を反映した論理となりません。
ついで「院所の規模や形態が異なるために汎用的に利用できるものにはなっていない」という記述ですが、一面的と考えられます。
まず「汎用的に利用できる」という表現ですが、メルクマ−ルをあきらかにせずに記述するのは、一方的レッテル張りで、客観的評価になりません。
かなりあいまいに「あるある院所で使用しているソフトウエアを別の院所へ移植しても、1〜2ケ月程度の期間の手直しでは運用できない」という意味で「汎用性がない」というならば、たしかにこれまでの汎用機による病院情報処理システムソフトウエアはこの問題をもっていました。
その側面も重大ですが、コンピュ−タ−メ−カ−やソフトハウスが、これまで汎用機システムをオ−プンシステムに発展させずに、自己の利益を守るために「ユ−ザ−の囲い込み支配」をおこなって、汎用的に利用したくてもできないようにしてきた事実をあらためて指摘せざるをえません。
ですから、今日でもユ−ザ−はリプレ−スの自由を奪われ、次期システムを他社システムに変更するのは多大な困難と「犠牲」が強いられているのではないでしょうか。
こうした論旨から「今後の院所の情報処理システムはオ−プンシステムをファ−スト・チョイスとして検討すべきである」「コンピュ−タ−大企業の支配のくびきから、自らを切り離すためには、覚悟を決めてオ−プンシステムへ切り替えるべきである」ということになると思いますが、いかがでしょうか。
今日、ソフトウエア言語たとえばVB4技術などによるアプリケ−ション開発「プロトタイプ方式でのシステム構築」では、オ−プン性と汎用性が一定保証される段階に到達していると考えていますが、どう評価されているのでしょうか。
C/S型医師オ−ダリングシステムによる病院情報処理システムが準備期間4ケ月程度(愛知のK総合病院では実準備2ケ月)で稼働している例もいくつもあります。
この段落の最後に電子カルテシステム等に論求して「・・・・これらは請求業務の軽減化の反面、医療標準化の促進と・・・・」と政府厚生省の狙いを述べていますが、電子カルテシステムによる医療改善・患者サ−ビス向上・合理化など積極的側面からの位置づけもおこない、とりくみをおこなうよう記述を付け加えないと、対応を誤る一面的論理となると考えますが、いかがでしょうか。
問題提起は「コンピュ−タ−の活用をメ−カ−の言いなりでなく・・・・実際には専門知識を持った人材はごく少数で、主体的にシステムを構築するというにはほど遠い・・・・」とありますが、一般論的(精神論的)にはそのとおりと感じますが、具体的には何を言いたいのか理解できない部分です。
「専門的知識」と「一定の技術力量」の人材が「主体的にシステムを構築する」ことが望ましいという論旨でしょうが、「メ−カ−と対等に交渉できる」「専門的知識」や「一定の技術力量」とは「システム設計やプログラム作成の段階で対等に対応でき」「プログラム作成、修正などは職場の要求に機敏に答える」ことができることを意味するのでしょうか。
そのことが「主体的にシステムを構築する」こととどの様な関連となるのでしょうか。
客観的な現実は、今日では病院情報処理システムのソフトウエア開発が数人のSEで可能となるようなものではないということです。
ですからメ−カ−(ソフトハウスも含め)は、数十人から数百人が専門的にコンピュ−タ−システム構築の技術を分担し、能率良くシステム開発できるハ−ド・ソフト設備環境を整え、ユ−ザ−が必要とする技術をチ−ムで提供する体制をとっています。
それは、システム構築のためにはハ−ドの側面からしても、コンピユ−タ−本体・外部記憶装置・出入力装置・医療検査機器類はじめとする周辺装置・通信装置(インタ−フェイス含む)これらの先端技術の知識のみでなく、組み合わせも含むノウハウや具体的実装運転技術が必要だからです。
ソフトウエア技術としては、デ−タ−ベ−ス技術はじめ、各ハ−ドを目的にかなって作動させるアプリケ−ションソフトウエア・各アプリケ−ション間の通信と同調をはかるソフト技術など複雑なロジックで組み立てられているソフトウエアとマンインタ−フェイスの調整、各システム構築のための言語評価、ソフトウエアの組み合わせのノウハウなど膨大な知識が必要です。
「現場業務の精通」にしても、良く研究しているメ−カ−のSEの方が院所の業務形態に縛られない自由な発想から、むしろ効率的で効果的な業務処理システムを逆に提案することさえあります。
いくら院所が数人の専門家SEを有していても、「現場の業務に精通し」「メ−カ−とプログラム作成で対応でき」「主体的にシステムを構築」することは客観的には不毛な論理であるからこそ問題提起も「ほど遠い状況」と述べざるをえないのではないでしょうか。
メ−カ−の技術を正しく評価して(評価できる能力を身につけて)、協力共同でシステム構築をおこなうという観点こそ本質的と思いますが、いかがでしょうか。
問題提起の論旨の様に、メ−カ−から導入したコンピュ−タ−システムの膨大な業務アプリケ−ションプログラム(そのロジック)に精通し、改善できるSEが必要などと位置づけたならば、マルチメディア技術もなにもかも身につけた天才的SEでもないかぎり、あたりまえのSEならば逆に展望を持てなくなると思いますがいかがでしょうか。
問題提起にあるような「専門性」論的視点で位置づけられたSEは、業務任務を果たそうとすればするほど、真面目に必死にコンピユ−タ−システムへの対処にのめりこまざるをえず、「患者住民との接点は薄れがち」となるのは当然です。
それどころか、SEは技術者ですから、のめりこむことで生き甲斐を見いだすようになってしまったSEは自己の技術が時代の発展に対処できなくなっても、存在価値を他に見いだせなくなり、その技術に拘泥するあまり、新しい技術によるコンピユ−タ−システム(安価で高性能でマルチメディアでオ−プンな)を評価できなくなる危険性さえ内包していることに注意する必要があると思います。
かつて世界のIBMでも汎用機技術に拘泥して経営を危うくし、アップルコンピュ−タ−も自己のOSでの囲い込みをおこなったため世界市場から見限られ、ついにマイクロソフトの軍門に下る結果を招きましたが、もって他山の石とすべき教訓です。
コンピユ−タ−システム技術は、秒進日歩で発展しています。
そうした中で、各病院のSEや専任者に一番求められている役割は何でしょうか。
たとえば、当院の経験からしても、3年半前の見積で、汎用機システム4〜5億、UNIXによるPCクライアント/サ−バ−システムが2.5億程度、WindowsNTによるPCクライアント/サ−バ−(オ−ダ−エントリ−)システムが約1.4億となりました。
見積で、必要投資額にこれだけ差がでる客観的事実があり、しかも汎用機のパッケ−ジ(一部カスタマイズ)利用しかできない情報閉鎖と異なり、UNIXとWindowsNTは情報のオ−プン活用とシステム機能の自由な職場展開が前提でした。
今後、具体化されるであろう電子カルテは、マルチメディア技術をベ−スにシステム開発が進められていますが、厚生省行政とは対抗しつつ、医療内容の向上・労働の軽減と合理化・患者との情報の共有と民主的パ−トナ−医療という側面からの積極的な取り組も必要です。
病院情報処理システムは、高額の投資が必要というだけでなく、医療・経営活動をも左右する(たとえて言えば人間の神経)機能をもつものです。
システム形態も3年前のクライアント/サ−バ−システムから情報の共有活用のイントラネットシステムが今日の先進となってきました。
OSとしてもUNIXではクライアントPC1000台程度までコントロ−ルできますし、WindowsNTでは300台程度まではコントロ−ルできる実績があり(2年後くらいには、UNIXと同程度の能力となる予定)ます。
ソフトウエア言語もC系統・VB5・Delphi・JAVAなど発展過程です。
クライアントもPCからNC(ネットワ−ク・コンピュ−タ−システムに特化した超安価なPC)が製造される時代となっています。
このように目まぐるしく技術革新が進む時代に、変化発展の方向を見定めて院所のシステム構築を管理部がどう決断してゆくのか、院所の死命を決するような重大な路線選択にあって、その判断のための材料を正しく収集できる能力が、今一番求められているのではないでしょうか。(そのためには、SE自身に自己のこれまでの技術に拘泥しない資質が必要となります。)
どの様なシステムで、患者と情報共有をはかる民主的なパ−トナ−医療を実現するのか、コンピュ−タ−システムを活用しての、新しい医療活動の展開を具体的な構想として政策提起できる能力が求められているのではないでしょうか。
たしかに、デ−タ−ベ−スなどでのソフトウエア構築技術などプログラミングに関する技術も重要で、システム開発でのメ−カ−との協力共同の作業を主導的かつ効果的に進めるためには一定の技術能力があることが望ましいでしょう。
しかし今日、例えばVB4などによるプロトタイプ開発方式は、業務現場で実務担当者から業務内容を調査し、院所SEや専任担当者とメ−カ−SEでシステムロジックを検討し、プロトタイプをメ−カ−がつくって現場で実務担当者が検証し、メ−カ−に改善させて使いやすいアプリケ−ションを構築する方式です。
院所SEがプログラムの全てを理解する必要はないし、ましてやそんなことは不可能な時代です。
システム構築にあたつての具体的任務は、プロデュ−スにあり、そうした視点から院内各部署の情報処理のもっとも適切なシステム化を常に研究しデザイン案化し(そのために各業務の理解を深めることも必要ですが)、各部署の職員をシステム構築に正しく参加させ、アプリケーション開発に現場職員の知恵をひきだし、組織的な取り組みを作り上げるマネジメント能力こそ一番に求められる時代となつていると考えられます。
以上