■ 先生 ■


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どうして、こんなにも心が乱れるんだろう。

この、胸の騒がしさは、一体何なんだろう。

この気持ちを、何て呼んだらいいんだろう。



只、分かっているのは、原因は全て、先生だということ。

私の心を乱すのも、私の胸を騒がせるのも、先生だということ。

只、それだけ。



けれど、恋とは違う。

恋なんかじゃ、ない ――― 絶対に。









「 ―― 失礼します。 」

そう言って、薄暗い地下にある先生の研究室に入るのは、もう日課みたいなものだ。

授業の質問をして、時には議論したりもする。

それから、他愛のないお喋りも、最近はするようになった。



私は、ここへ来て、スネイプ先生と話をする時間が、とても好きだ。

先生は、先生だから、当然色んなことを知っている。

魔法薬学だけじゃなくて、他の教科の知識の量もすごい。

授業では聞けない興味深い話を、たくさん聞かせてくれる。

先生は、決して口数が多い方ではないけれど、

それでも、何度も通ううちには、少しずつ打ち解けていけるのが、嬉しかった。



それから、先生は、私の話を聞いてくれる。

先生からしてみれば、稚拙な、子どもの言う事なのに。

それなのに、ちゃんと聞いて、考えてくれる。



色んな話を聞いてくれて、聞かせてくれて、私にとってこの時間は、とても楽しいものだった。   

本当に只、無邪気に先生を慕っていて、それは特別意識される事もないような、

まるで空気のような、あって当然で気が付かない程の、自然なものだった。



なのに、ほんの些細なことで、私の自然は崩れてしまった。





「 ―― 先生、紅茶、いっぱいあるんですねえ。 」

たまに、先生の気が向いた時は、紅茶を淹れてくれた。

ある時、棚に、たくさんの種類の紅茶の葉が並んでいるのに気付いた。

そして、何気なく、本当に何という気もなく発した言葉。


「 紅茶、お好きなんですね。 」


言わなければ、良かったんだ。

先生から返ってきたのは、予想外の言葉。


「 ・・・いや、我輩は別に好きでも嫌いでもないのだが、家から送ってくる。

  妻が、紅茶好きなのでな ―― 」


苦笑して、そう言った。

だけど、何だか少し嬉しそうな、初めて見る先生の表情だった。

別に、何かを特別に意識しての言葉じゃない。

先生は只、訊かれた事に対して事実を返しただけ。



なのに、私は動揺した。

どうして今まで、気付かなかったんだろう。

先生にだって、私生活があるんだ。それは、ごく当たり前に、そうなんだ。



先生は、先生で、それ以外の何者でもないと思っていた事に気付く。

ここに居る先生が、先生の全てだと、思っていた事に。

そんな筈は、ないのに。

寧ろ、私の知らない事の方が多いのかもしれないのに。



先生の、帰る家。

先生を、迎える人。

私には、想像もつかない、決して踏み込めない場所。


「 妻が ―― 」


先生の発したその一言が、何故か頭の中にこだまする。

自分でも、どうしたらいいのか分からない気持ちになった。



淋しい、悲しい、苦しい ・・・・・・



先生が、先生じゃないのは、いやだ。

私の知らない先生は、いやだ。



「 ミス・、 」

―― そう言って私を呼ぶ、その低い声で、“ 妻 ”なんて言わないで。



どうして、こんな気持ちになるんだろう。

この気持ちを、何て呼んだらいいんだろう。



それでも、恋とは違う。

恋なんかじゃない。



恋なんかしては、いけないんだから ―――a







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