どうして、こんなにも心が乱れるんだろう。 この、胸の騒がしさは、一体何なんだろう。 この気持ちを、何て呼んだらいいんだろう。 只、分かっているのは、原因は全て、先生だということ。 私の心を乱すのも、私の胸を騒がせるのも、先生だということ。 只、それだけ。 けれど、恋とは違う。 恋なんかじゃ、ない ――― 絶対に。 「 ―― 失礼します。 」 そう言って、薄暗い地下にある先生の研究室に入るのは、もう日課みたいなものだ。 授業の質問をして、時には議論したりもする。 それから、他愛のないお喋りも、最近はするようになった。 私は、ここへ来て、スネイプ先生と話をする時間が、とても好きだ。 先生は、先生だから、当然色んなことを知っている。 魔法薬学だけじゃなくて、他の教科の知識の量もすごい。 授業では聞けない興味深い話を、たくさん聞かせてくれる。 先生は、決して口数が多い方ではないけれど、 それでも、何度も通ううちには、少しずつ打ち解けていけるのが、嬉しかった。 それから、先生は、私の話を聞いてくれる。 先生からしてみれば、稚拙な、子どもの言う事なのに。 それなのに、ちゃんと聞いて、考えてくれる。 色んな話を聞いてくれて、聞かせてくれて、私にとってこの時間は、とても楽しいものだった。 本当に只、無邪気に先生を慕っていて、それは特別意識される事もないような、 まるで空気のような、あって当然で気が付かない程の、自然なものだった。 なのに、ほんの些細なことで、私の自然は崩れてしまった。 「 ―― 先生、紅茶、いっぱいあるんですねえ。 」 たまに、先生の気が向いた時は、紅茶を淹れてくれた。 ある時、棚に、たくさんの種類の紅茶の葉が並んでいるのに気付いた。 そして、何気なく、本当に何という気もなく発した言葉。 「 紅茶、お好きなんですね。 」 言わなければ、良かったんだ。 先生から返ってきたのは、予想外の言葉。 「 ・・・いや、我輩は別に好きでも嫌いでもないのだが、家から送ってくる。 妻が、紅茶好きなのでな ―― 」 苦笑して、そう言った。 だけど、何だか少し嬉しそうな、初めて見る先生の表情だった。 別に、何かを特別に意識しての言葉じゃない。 先生は只、訊かれた事に対して事実を返しただけ。 なのに、私は動揺した。 どうして今まで、気付かなかったんだろう。 先生にだって、私生活があるんだ。それは、ごく当たり前に、そうなんだ。 先生は、先生で、それ以外の何者でもないと思っていた事に気付く。 ここに居る先生が、先生の全てだと、思っていた事に。 そんな筈は、ないのに。 寧ろ、私の知らない事の方が多いのかもしれないのに。 先生の、帰る家。 先生を、迎える人。 私には、想像もつかない、決して踏み込めない場所。 「 妻が ―― 」 先生の発したその一言が、何故か頭の中にこだまする。 自分でも、どうしたらいいのか分からない気持ちになった。 淋しい、悲しい、苦しい ・・・・・・ 先生が、先生じゃないのは、いやだ。 私の知らない先生は、いやだ。 「 ミス・、 」 ―― そう言って私を呼ぶ、その低い声で、“ 妻 ”なんて言わないで。 どうして、こんな気持ちになるんだろう。 この気持ちを、何て呼んだらいいんだろう。 それでも、恋とは違う。 恋なんかじゃない。 恋なんかしては、いけないんだから ―――a 【back】 |