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生まれて初めて、心から愛しいと想った人・・・・・
だけどその人は、好きになってはいけない人だった。 誰よりも、想いを寄せることが許されない人だった。 それでも、溢れる想いは止められなかった。 どんなことをしても、誰を傷付けても側に居たいと・・・・ そう、願うことは罪なのだろうか。 だとしたら、神様はわたしに、どんな罰を下すのだろうか。 「。」 授業の終わりに、わたしを呼び止める声がして、振り返った。 その声の主は、同じ寮のドラコ・マルフォイ。 わたしの従兄で、幼馴染で、そして・・・恋人。 「お前、今年の休暇も、うちに来るのか?」 「・・・・行ったら、邪魔・・・?」 「そっ!そんなこと・・・ない・・・・。その・・・楽しみに、してるから・・・。」 少し赤くなって喋るドラコに、思わず微笑んでしまう。 「・・・・うん。わたしも・・・楽しみ。」 「そうか・・・。」 「・・・うん。」 「・・・じゃあ、また後で。」 「談話室に居る?」 「それか図書館か、どっちかだ。」 「分かった。じゃあね。」 そう言って、軽くキスをすると、やっぱりドラコは少し照れたように、 ぶっきらぼうに小さく「ああ」と返事をして、足早に教室を出て行った。 その背中を見ながら、わたしは小さな罪悪感に襲われる。 ドラコがわたしを好きなのは、付き合うずっと前から知っていた。 でも、わたしは彼を従兄以上には思えなかった。 それなのに、彼の告白を受け入れた、その理由は ――― 彼が、“あの人”の息子だから。 ドラコと付き合えば、あの人の近くに行けるから。 手に入れたいなんて、そんなことは望まない。 ただ、側に居たい。 わたしが、あの人にとってどんな存在であろうと構わない。 ドラコと話しているときも、キスしているときも、抱き締められているときも。 どんなときでも、“あの人”を想わない瞬間はない。 その瞳、その髪、その唇、全てにあの人の血が流れているのだと思うと、 それはわたしの胸を酷く昂ぶらせた。 そんな時、同時に感じる罪悪感 ― ドラコを裏切っているという罪悪感 ― にも、 何時の間にか慣れていた。 というよりも、あの人を想う気持ちに、その罪悪感が勝ることは、一度もなかった。 汚くてもいい。苦しくてもいい。 それがあの人を想うことの代償だというのなら、どんなことでも受け入れる。 わたしの心は、今までも、今も、これからも。 何が起こっても、そこを離れることは、ない。 * * * * * * * * その屋敷は、郊外の、だだっ広い敷地にそびえ立っている。 何百年も昔から、代々受け継がれてきたマルフォイの家。 その現在の当主が、わたしの叔父で、ドラコの父親であるルシウス・マルフォイ・・・。 大きなエントランスの扉を開くと、ドラコが出迎えてくれた。 「遅かったな・・・・・。迎えに行けなくて悪かった。」 「気にしないで。昔から何度も来てるのよ。一人で平気だって。」 「そうか・・・いや・・・でも、すまない。」 「・・・いいってば。・・・・叔母様達は・・・?」 家の中が酷く静かなのが気になって、訊いてみる。 「母上は用があって出掛けてる。父上は、書斎で仕事中だ。」 「・・・・・そうなんだ・・・。」 “父上”という言葉に、心拍数が上がったのが分かる。 居るんだ、ここに・・・。 そう思うだけで、妙に浮き足立ってしまう。 「ちゃんと揃って出迎えてやれなくて悪かったな・・・。 2人とも、今、なんか忙しいみたいで・・・。」 「いいよ、そんなの。毎年来てるんだから。」 「・・・夕食のときには、皆で歓迎するから・・・」 「もう、いいのに・・・そんな気にしなくて・・・。」 「父上も母上も、毎年お前が来るの楽しみにしてるんだ。 娘ができたみたいだって。」 「・・・・・ありがと。」 “娘”・・・・少し、胸が痛んだ気がした。 別に、それでも構わないけど・・・。 「いつまで、ここに居るんだ?」 ドラコが、わたしの使う部屋へ案内しながら訊いてくる。 「んー・・・あんまり長くお邪魔しても悪いし・・・1週間くらいかな・・・。」 「休暇中、ずっと居てもいいのに・・・」 「そんな訳にはいかないでしょ。わたしだって家でやることもあるし・・・。」 「・・・じゃあせめて1ヶ月・・・」 「・・・・長くても2週間。」 「・・・・・お前、いつから僕の言うこと聞かなくなったんだ?」 「ドラコこそ。・・・・そんなにわたしと離れ難い?」 「・・・・・・・悪いか」 「・・・・っ!」 不意に、キスで唇を塞がれる。 「・・・ん・・・っ・・・・ちょ・・・っと、ド・・・ラコ・・・人が来たら・・・」 「来ないさ。みんな出掛けてるし・・・父上は、仕事中は、部屋を出ない・・・」 そう言いながら、その唇は首筋へと降りてきて、腰を支えていた手は、 スカートの中へと入れられる。 「!や・・・・だってば・・・・こんなトコ・・・で・・・」 「・・・学校に居る間、どれだけ我慢してたと思ってる・・・?」 「っ・・・だから・・・って・・・・や・・・だ・・・・っやめ・・・」 「・・・やめろって言われてやめる馬鹿は居ない。」 ドラコはそう言うと、再び唇を塞ぐ。 最近になって交わすようになった、深い、大人のキス・・・・。 「・・・っん・・・・っ・・・」 どうにかしてその腕から逃れようとしても、やはりドラコの方が力が強い。 「・・・っ大人しく、言うことを聞け・・・っ」 ドラコはわたしの躰を壁に押しつけるようにして、その指が胸のボタンにかけられた。 「っやだ・・・っ、ドラコ・・・っ!!・・・・・これ以上やったら、今すぐ帰るからっ!!」 瞬間、ドラコの動きが止まる。 2人の視線がぶつかり合ったまま、沈黙が流れる。 そして、溜息で先に沈黙を破ったのはドラコだった。 「・・・・・全く・・・ずるいよ、は。・・・・そんなこと言われたら止めざるを得ない。」 「当たり前でしょ?!・・・・何考えてるのよ、こんな・・・廊下で・・・。」 「・・・・部屋ならいいのか?」 「・・・・・もう・・・・知らない!・・・あとは大丈夫だから、夕食まで来ないで!」 「・・・怒ってる?」 「怒ってないと思ってるの?」 「・・・・・・・。」 「もうっ!いいから、早く行って!!」 「・・・・分かったよ、夕食までには機嫌直しとけ。」 そう言って歩いて行くドラコに、また少し罪悪感を感じる。 ・・・・・・ごめんね、ドラコ・・・。 でも、どうしようもないの。自分でも、どうすることも、出来ないの・・・・。 少し重い気分で、わたしの使う部屋の扉を開ける・・・と、 「・・・あれ・・・・間違えた・・・。」 そこは客室ではなくサンルームで、部屋中、太陽の光で溢れていた。 「・・・・眩し・・・・・・?!」 瞬間、自分の目を疑った。 「・・・・だ・・・れ・・・・?」 訊くまでもない。 窓辺に、外を向いて置かれたデッキチェアに座っているのは・・・・。 「叔父・・・さま・・・」 返事はなかった。 けれど、見間違うはずなんてない。 椅子の背もたれ越しに覗く腕。美しく伸ばされた、プラチナブロンドの・・・髪・・・。 胸が高鳴るのを抑えながら、ゆっくりと側まで歩いていくと・・・。 「・・・・寝てる・・・」 規則正しい、小さな寝息を立てながら。 わたしの誰より会いたかった人が、今、目の前で眠っている・・・。 その整った顔を見つめていると、涙が溢れそうになる。 「・・・叔父さま・・・・。」 起きないで下さいね・・・と心の中で祈りながら、そっと顔を近づける。 そして ――― その薄い唇に、静かに口づけを落とした・・・・ 自分でも、信じられない行動だった。 その感触に、ますます鼓動が跳ね上がる。 彼が目を覚まさないのを確かめて、足早に部屋を出ようとした、その時 ――― 「・・・・何の遊びだ、?」 体中に響く、低い声。 まさか、起きてたなんて・・・。愕然として、頭の中が真っ白になる。 何て言い訳したらいい? 動くことも、喋ることもできないでいると、 彼はゆっくりと椅子から立ち上がり、わたしを見下ろす。 温度の低そうな、その青い瞳に見据えられて、ますます何も言えなくなる。 すると、彼の指が、わたしの顎にかけられた。 「っ・・・・・?」 「・・・・何の遊びか、と訊いている。」 「・・・・・・・っ・・・遊びじゃ・・・・」 「本気だと?」 「っ・・・・ちが・・・・」 もう、何を言っているのかも分からない。 次第に、涙が溢れてくる。 「・・・・しばらく見ないうちに、随分と行儀がよくなったものだな。」 「・・・・・」 「人の家の廊下でイチャついた次は、その父親にまで手を出すのか・・・?」 「そんな・・・・っ・・・」 一瞬、何が起きたのか分からなかった。 彼はわたしの体を抱き寄せ、強引にキスをしたのだ。 「・・・・ん・・・・っ・・・」 そして抵抗する隙も与えられず、彼の舌がわたしの口内に侵入してくる。 「・・・ぅ・・・っ・・・ん・・・・」 ドラコとするのとは全然違う。 もっともっと、大人のキス・・・・・。 彼の体温と甘い薫りに包まれて、キスだけなのに、意識が朦朧としてくる。 「・・・・っ・・・叔父・・・さま・・・っ・・・・?」 ようやく開放されたと思ったら、今度はその唇がわたしの首筋を伝う。 「・・・あ・・・っ・・・」 彼の唇が、舌が触れる度、躰が熱く反応する。 「・・・や・・・・っ・・・」 立っていることもままならず、とっさに彼にしがみつく。 「・・・どうした?さっきはこんなに感じていなかっただろう?」 「・・・・さっ・・・き・・・?」 「ドラコが触れたのと同じ場所にしか触れてはいないのだが?」 「・・・っ!・・・なん・・・で・・・知って・・・」 「私を誰だと思ってる?」 口許に、冷たい、愉しそうな笑みを浮かべてそう言うと、 すでに力の入らないわたしの躰を軽々と抱き上げた。 「・・・・っ!・・・叔父さま・・・っ?!」 そして彼は、わたしの耳元で囁いた。 ― 面白い・・・この遊び、付き合ってやろう ― 許されないことと分かっていても、この罪から逃れる術を、わたしは知らない。 苦しくても、汚くても、誰を傷付けても一緒に居たい。 神様はわたしに、どんな罰を下すのだろうか ――― 【back】 |