あの人の、声が好き。 ポツリとたった一言でも、その低い音は、低く、心地よく響く。 どこに居ても、何をしていても、絶対に、聞き間違えたりしない。 耳に届いた瞬間、反射的にその声のした方を振り返る。 すると、そこには、彼が居る。 陰気で、冷たくて、嫌われ者の、魔法薬学教師。 私には、そんな評判なんて関係ない。 いっそ、みんなもっと嫌えばいい。 もっともっと、あの人のことを嫌ってくれればいい。 そうすれば、私だけが、あの人のことを好きでいられるから。 あの深く響き渡る声を追いかけて、無意識にその姿を探すのは、私だけで、いい。 いつからこんなに、執着するようになったんだろう。 彼のことを、何も知らないというのに。 授業以外ではほとんど顔を合わせることなどない。 いつも彼が、何を考えているのかも、あの暗闇のような瞳に、何を映しているのかも、 何一つ、知りはしないというのに。 吸い寄せられるように、呪文を唱える声に惹かれて、気が付けば、いつも目で追っていた。 その声で、私の名前を呼んで欲しい。 私だけのために、響いて欲しい。 そう、考えただけで、胸は高鳴った。 「スネイプ先生、お話ししたいことが、あります」 ある日の放課後、先生の研究室のドアを叩いた。 見ているだけでは、何も始まらない。 望みを、現実のものにしたいと、本気でそう思ったから。 想いは、もうとっくに、飽和状態だったから。 「何だ、お前は」 「レイブンクロー寮6年、・です」 「……何だ、話とは」 初めてだった。 先生が、私を見て、私に向かって、言葉を紡ぐ。 それは随分とそっけないものだったけれど、私を喜ばせるには十分だった。 嬉しさなのか、緊張なのか、手が、足が、小さく震えた。 「あの、突然なんですけど、私、スネイプ先生のことが、好きなんです」 「……何だと?」 「だから…、先生のことを、好きなんです。とても」 「………それだけか?」 「…はい」 「……下らんな」 「………すみません」 先生の返事を、予想していたわけではないけれど、こんなにあっけないと流石に驚く。 これまでにないくらい間近で聞くその声は、いつも以上に深く響く。 私の心を、震わせる。 非道い言葉を吐かれているにもかかわらず、先生の落とす一言一言の余韻に、私は浸っていた。 「用が済んだなら帰れ」と言う先生に、言葉を返すこともできず、言われるままに、背を向けた。 けれど、ドアノブに手を掛けたとき、不意に、後ろから先生の声が降ってきた。 「…お前が、いつも我輩を見ていた理由が分かった」 「……!!」 「覚えておこう、ミス・」 先生が、微笑った。 望みが、現実となるのは、近からず、けれどそう遠くはない未来。 (2004.4)
【back】 |