夕暮れのピアノ
夕暮れのピアノは
風鈴よりも涼しげなのに
小さな家では弾けない
丘の上にピアノを置いて
太陽のマーチと
雨のワルツと 風の協奏曲を
弾いてみたい
小さな窓から雲が旅をするのが見えて
わたしのいる世界が
ほんとうに狭苦しく想えた

小さな家の夏は
サマータイムの夢も
星の見えるキャンプ場とか
ごった返すテーマパーク
子供たちは
その他大勢の子供たちのように
帽子のなかで汗をびっちょりかいて
そんな夢のためにも嬉嬉としているよ

小さな家のペットは
物言わぬ小動物
ぱっちりと瞳を開いて
もっと小さな家に賢く暮らしている

扇風機の水色が
あたらしい季節を僅かに感じさせ
わたしは
グランドピアノの前に
こしかける夢を毎日想いながら
今日は丘の上
明日は渚の水の上で
ピアノを弾いているのだと
心を泳がせる