閉店間際 |
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色の褪せた果物は嫌われたまま 腐乱しようがそのまま。 くびれたバナナの腰。 どれひとつ 買いたいものなど無い。 ひとびとは そそくさと帰る。 其処しかあいてないから しかたなく買い物にきたのよと とげとげしい足音。 だから悲しいんだ。 閉まるまぎわのこんな時間。 いつでも安いというキャッチフレーズも 破れた旗では示しがつかない。 ビニールをたくさんもらって帰る 一人暮らしのおばあさん。 腐乱しそうな果物をひとつ すくってあげたいのでかごに入れた。 見分けるコツを彼女は 知っている。 わたしは裏返されたトマトのへたを 何度も見比べるのに 疲れて そして しめやかな葬式のように すこしずつ はこばれて商品が 価値を失い なにかが 終って行く。 なにかが。 閉店のアナウンスを聴く前に 早く 早く外へ。 光る駐車場の 鎖。 繋がれた犬は もう 居ない。 |