無題
僕の頭が語りかける
「それでいいのかい?」

気づいたときには、僕はここにいた
何ももたず、何の力もなく、唯一僕にあるものは
五感というものだけ
耳をすました、何も聞こえない
目をこらした、何も見えない
臭いをかいでみた、何もしない
何かに触れようとした、触れるものが何もない
味覚も…ない

僕の頭が語りかける
「それでいいのかい?」
僕の心が語りかける
「そうか」

何もしないまま、時に流されて行く、いつ終わるかも解らない
ただ、むだな時間に僕は流ている、言わば、大海原に何ももたず
出かけて行く大バカもの、いや、無謀なだけかもしれない…
先の見えない中で、ただじっと潮の流れに沿って、漂う漂流者
時折見かける船の形は、何も見なかったかのように、小さな影だけを残して消えて行く
そう、僕は何もしないのだ、助けも求めない
ただ、ただその場の運に身を委ね、目の前のものに何も触れずに、目だけで追うだけ

僕の頭が語りかける
「それで、いいのかい?」
僕の心が語りかける
「そうか」
僕のからだが語りかける
「なにもできないから」

僕の頭の上を、終わりなきように飛び回る雲のように、僕は漂い続ける
そう、こうしている間にも少しづつ前へ進む時の中に…
身を委ね、ただじっと目の前のものを見ているだけ
たとえ、何があろうと見ているだけ
無防備に横たわり、どんなものにも関心を示さず
ただ、静かにやり過ごすだけ

ふと、考えてみる、明確な答えは出ない
ふと、思ってみる、曖昧な答えしかでない
ふと、立ち上がろうとする、力が出ない
アレからどれくらいの時間が流れただろうか…
いつからか空がみえた、潮の香りがした
波の音が聞こえた、少しずつだけれど、やはり変わって行く

僕の頭が語りかける
「なぜ?」
僕の心が語りかける
「なぜ?」
僕のからだが語りかける
「なぜ?」
なぜ?
考える、思う
わからない、わからない
いや、わからろうとしないから
だから、そこから進めないのだ
頭で考え、心で思い
答えが出たら、行動に移せばよいのだ
簡単なこと、簡単なこと
そう簡単な、とても簡単
誰にだってできること、それなのに僕は…
あるがままを眺めているだけもいいのかもしれない
でも、僕には考える頭がある、思う心がある、動ける体がある
少しずつ前に進めるんだ、このことに気づいたその時から…
前に、前に、前に進めるんだ