特別メッセージ

「クロス友の会」代表 山南 飛龍 (08/14/1998)
【クロス探偵物語】

このゲームを語るのに、どんな言葉で伝えたらいいのでしょう。
なんと言うか、久しぶりに直球勝負のゲームに出会った!
そんな嬉しさを感じさせてくれるのが、このクロス探偵物語です。

内容のほうはと言うと、タイトルにも示している通り探偵もののアドベンチャーゲームで、システム的にはオーソドックスなコマンド選択方式を採用、そして気になる箇所をクリックして自由に調べるポインタを使用して話を進めていきます。
また、要所要所で実際に文字を入力して推理を行っていくなど探偵になったかのような気分を味わえるのが特徴です。
肝心のシナリオも主人公が全部で7つの物語を解いていくといった短編が集まった形式が採用されていて、どのシナリオもクロスならではの魅力が随所に光っています。
話じたいは比較的重ためな内容ですが、登場人物達の明るい性格もあってかしんみりする事も少なく、気がついたらついつい遊んでしまっている自分に気がつくはずです。
魅力についてはこれから徐々に語っていくとして、まずは簡単な予備知識程度のものから順を追って書いていきましょう。

このクロス探偵物語はゲーム業界初参入となるワークジャム(「DIGITAL TOKYO」と「PLANPLAN」の共同レーベル)が参入第一段として放つ完全オリジナルタイトルです。
企画・監修にはゼロヨンチャンプシリーズ(私はプレイした事がありませんが)の神長豊氏、キャラクターデザインは玉置一平氏、そしてテーマソングにピチカート・ファイヴを迎えて制作されています。
初参入でしかも完全オリジナルタイトルのアドベンチャー。
これだけでも胸がわくわくしませんか?
私は期待に胸が膨らみました。
そのクロスを初めて知ったのは雑誌の新作紹介のコーナーだった訳ですが、最初は記事も数行しかなく、ひっそりとしたものでした。
が、その記事を見た時にピンと来たのもまた事実。
今はもうコーナーごと削除されてしまいましたが、「期待の新作」というコーナーや掲示板でクロスを押していたのを覚えている人もいるかと思います。

さて、クロス発売の前後(98年5月〜6月)、私は幸いにも関係者の方とメールのやり取りをする事ができました。
その人の言葉を借りれば「都会的でポップな感じを狙っていて、会話も自然な感じで進んで行くようにシナリオが書かれています」との事で、実際に触れてみればその意味も分かります。
「会話の自然な流れ」という所に絞って話をすると、皆さんも様々なゲームを遊んでいて「出会い・会話・別れ」といった一連の流れやそこから派生するシナリオの変化に不自然さや違和感を感じた事があると思います。
ですが、その不自然さや違和感といったものが、このクロスでは一切感じられません。
当たり前の事かもしれませんが、それが全編を通じて徹底されている訳です。
この「当たり前の事」。
実は簡単なようで以外と徹底されているゲームは少ないように感じます。
今だから言える事ですが、クロスでは流れそのものがあまりに自然すぎて、プレイ中は意識する間もなくゲームに引き込まれてしまいました。
こういったさり気ない所に、制作者の意識が集約されているのかもしれません。

そして私が実際にプレイしてみて感じたのは、上に書いてある事もさることながら「非常に雰囲気とテンポを重視した作品である」という事です。
まず、「雰囲気」という所から話をしていくと、他のゲームでは見た事のない玉置氏の独特でしかも存在感のある絵柄が目を引き、なんとも言えない味を醸し出しています。
登場人物達の性格もそれぞれが似かよる事もなく、しかも突出しすぎていないバランスに抑えられていているので、雰囲気やシナリオをより味わい深いものにしているのも見逃せません。
音楽は派手さこそ無いもののこちらも場面場面で効果的な使い方をされています。

次に「テンポ」ですが、それをより確かなものにしているのが「マッハシーク」と呼ばれる技術でしょう。
簡単に言うと「必要なデータを先読みして読込み時間を減らす」というもので、このマッハシークのお陰で読込み時間はほぼ皆無と言ってもいいほど減少しました。
これはもう実際に体感して貰うしかありませんが、よくある「Now Loading」の文字は一切ありません。
気持ちいいくらいに次々と場面が切り替わります。
流石にボタンを連打してテキストを飛ばしに飛ばせば若干読み込みを感じる部分もありますが、その時間はどんなに大目にみても1秒もかかりませんし滅多にありませんから、まず気になる事もないでしょう。
(ちなみに読込み時間の理論値は0.3秒です。)
このマッハシークと会話の自然さ、そしてシナリオの面白さが綿密に関わり合って「テンポの良さ」というものが形成されているのでしょうね。

しかし、そんなクロスですが開発中に大きな仕様変更があったのを覚えている人も多いと思います。
というのも、当初クロスは1枚目のゲームを解くとそれまでにかかったコマンド数等を元にパスワードを表示し、それを送るとその人に合わせた内容の2枚目のCDが送られてくるといったものでした。
ワークジャムさんにしてみれば、よりよい内容のものをユーザーに遊んで欲しいという想いから提案されたのだと推察しますが、クリア後の「おまけ」ならまだしも本編となる1枚目と2枚目の間にタイムラグが存在するというのは、ユーザーにとってはある意味致命的です。
幸いな事にこれは時を経て撤回され最初から2枚組として発売されましたが、逆に言えば収録されていない話も存在するわけで興味は尽きません。

クロスを遊んでいて唯一残念だったのは、6話の3D移動(3Dで構成されたビルの中を歩き回る)の出来が悪かったところ。
移動のテンポが悪く途中でセーブが出来ない為、人によってはかなりイライラするかもしれません。
他のシナリオがテンポよく進んでいて気持ち良かっただけに余計に気になりました。
移動速度を若干速めるだけでも印象が変わったと思えるだけに残念です。
また、全編を通じてゲームが詰まった時のフォローが少なかったのも評価を分けるかもしれません。

そして、最も問題なのは売上げ本数が少ないという事です。
とある雑誌に神長豊さんの発言が載っていましたが、「今作が売れない事には続編が作れない」との事でした。
1ユーザーが気にする話題では無いという意見もあるかと思いますが、これほど丁寧かつ面白く作られているソフトが一部の人達にしか遊ばれていないのは非常に残念でなりません。

最後になりますが、クロスは非常によくできた名作です。
私の知る限りでも実際に遊んだ人達の評価は極めて高く、このまま埋もれさせるにはあまりに勿体ないソフトです。
可能ならぜひともドリームキャストで続編に触れてみたい。そう願ってやみません。
なによりクロスはまだ完結していないのですから・・・・・・

最後に。
1人のファンとして、このゲームの続編を切に望みます。


神長豊 (8/14/1998)
 「プランプラン」の神長豊です。
 「クロス探偵物語」では、企画、シナリオ、監督等をやっていました。今回このホームページにコメントを載せていただくことになり、いろいろと考えたました。結果、これを読んでくれる方は相当「濃い」層に違いないと思い(笑)、雑誌には載っていない(載せられない?)様な事を自分勝手に書くことにします。


 そもそも、この「クロス探偵物語」を作るきっかけは、「好き勝手に面白いゲームが作りたい!!」ということからでした。そのために「プランプラン」という会社を作り、以前から知り合いだった「デジタル・トウキョー」という会社と組んで、「ワークジャム」というレーベルを立ち上げたのです。

 とにかく何も決まっていない状態からのスタートだったので、まずゲームジャンルから決めることにしました。いろいろ考えた結果、一番可能性があるものとして「アドベンチャー」を選びました。ボク自身アドベンチャーは大好きなジャンルなのですが、当時32ビット機では純粋なアドベンチャーといえるものはありませんでした(と思います)。それどころかSFC時代にもサウンドノベルズ以外で傑作と呼べるものはなかったと思います。「みんな最高に面白いアドベンチャーを32ビットやりたいハズだ。」そう考えたのです。探偵ものには以前から興味がありました。月並みですがアドベンチャーとの相性も最高です。こんな感じで「クロス」の企画はスタートしました。

 32ビット機はアドベンチャーを作るのにとても適しています。CDなので容量は大きいですし、音声も比較的簡単に出すことができます。ただ問題なのはシーク時間です。今回「クロス」は「マッハシーク」という技術でこれを解決していますが、マッハシークができなければ「クロス」は発売できなかったでしょう。というのも、ボクの考える最高のアドベンチャーには、シーク時間のというものがあってはならないからです。

 シナリオを創るのは本当に苦労しました。もともとミステリーがそれほど好きなわけでもなかったし、(というか読むに値する傑作が本当に少ないと思います。)どうせやるのなら徹底的に研究して、矛盾やウソがないものを書こうと思っていました。それに加えて主人公の「黒須剣」が頭がいいんです。こちらの用意する罠には引っかからないし、トリックは簡単に見破ってしまう。これには参りました(笑)。

 例えば犯人が死んだ人の中に紛れるトリックを使おうとします。手を氷で冷やし、脇の下に物を挟み脈を止めたとします。でも、剣は絶対に引っかからないんです。手首ではなく必ず頸動脈で脈を取るからです。少しでも怪しい点があれば徹底的にチェックしますし、非常に用心深いんです。やっかいなキャラを主人公にしてしまったと後悔しています。

 薬物や放射能、犯罪の手口についても相当調べました。1話書くのに100冊くらいの本を読んだでしょうか。とにかく、図書館に通い詰めでした。でも、「クロス」の中には多少のウソが入ってるんです。なぜなら、犯罪の手口などあまりにもリアルに表現すると、倫理に引っかかってしまうんです。でもトリックやゲームの中身には関係ない部分なので許してください。

 全7話のオムニバス形式にした理由は、ボク自身あんまり長いものをプレイするよりは、適度な長さのものを多くやる方が好きだからです。と思って書き始めていったんですが、当初の予定よりどんどん長くなってしまい、全10話の予定が全7話になってしまいました。

 「飛龍」さんの感想でも指摘されていたのですが、第6話の出来が悪かったのには理由があります。第7話の「タランチュラ」は実は第6話で、第7話には「監獄島」という話が用意されていたのです。しかし、「監獄島」は大作で、これを入れるとCD3枚組になってしまい、開発期間も大幅に延期することが判明したのです。CD2枚のまま発売するためには以下の3つ方法がありました。「全話にわたって音声もしくは絵を減らす。」「マッハシークの性能を落とす。」「全6話にする。」

 ボクは他の話のクオリティーを下げるのはどうしてもいやだったので、「全6話にする。」を選びました。ただし、雑誌等でも全7話という事は発表してしまっていたので、急きょ短い話を挿入することになったのです。残された少ない容量と短い開発期間ではほとんど何もできません。そこで、第5話や第7話で使った3Dのエンジンを使って、ダンジョンものを作ることにしたのです。でも、このエンジンは小さな範囲を美しく表現するために作られたものなので、第6話のような広い範囲を表現する性能はあまりよくないのです。しかも、歩く速さを可変にすることにしたので、アイテムを使わない限り、遅い状態から始まり階段を上るごとにどんどん遅くなってしまいますので、異様に遅く感じるのだと思います。

 他の部分については、多少納得いかない点もありますが、だいたいやりたかったことが実現できたように思います。


 この「クロス探偵物語」、ユーザー評価が抜群に高いのはご存じだと思いますが、セガ内部での評価は信じられないくらい低かったんです。体験版程度(第一話〜第三話)のものを評価してもらったところ、「シナリオつまらない」「キャラ魅力なし」「グラフィック最悪」、とういう結果で、なんと10点満点中3点がついてしまったのです。こんなゲームではセガとしても協力できないといわれ、主要タイトルからはずされてしまいました。ボクはこの「クロス」が素晴らしいゲームであることを確信していましたから、セガの担当の方に「セガの評価チームはおかしいんじゃないか、ゲームを見る力がないんじゃないか。」と言い続けてきました。もし、10万本売れたら、評価チーム全員坊主になれとも言いました。でも、結局10万本は売れませんでした。セガの一押しからはずされたゲームは販売本数でも相当不利になってしまうのです。でもユーザーからの評価はサタマガで1029本中12位、サターンファンでも歴代29位です。ボクの正しさが証明されたのです。

 セガはこのことに対して真摯に謝ってきました。でも大事なのは謝る事じゃありません。いいゲームを見極め、それを評価して売ることができないセガの体制が、今日のプレステとの差を生んでいるのではないでしょうか。もともと「クロス」はサターンかプレステのどちらかで作る予定でした。うちは小さな会社ですのでメーカーの協力は不可欠です。両方に企画書を出し、評価の高い方で作ることにしていたのです。その結果、セガの担当の方は「クロス」を高く評価してくれました。一押しにして全面的にバックアップすることを約束してくれたのです。ソニーを断り、セガと契約して、製作を開始しました。

 一押しのソフトは商談会でプレゼンしたりすることができるのですが、「クロス」はさせてもらえませんでした。評価の結果、プレゼンタイトルからはずされてしまったということでした。これも評価チームが決めているのです。約束はどうしたんだと詰め寄りましたが、ゲームの出来がよくないからだといわれればどうしようもありません。いくら評価チームが間違っていると言っても、それを証明することはできないのです。評価チームが高い点数をつけるのは、人気作品の続編、有名作品の移植、大手ソフトメーカーの商品、話題のギャルゲー、キャラクターもの、これらだけです。新規参入メーカーのオリジナルタイトルなど、見る価値もないのでしょう。

 断言します。セガがこの体制を改めない限り、ドリームキャストでも失敗するでしょう。いくらCMで変わった変わったと言っても、ハードだけが変わって体制が変わらないのなら同じ結果になります。プレステ2にやられます。


 さんざんセガの悪口を書きましたが、じゃあもうセガでの続編はあり得ないのかといいますと、そうではありません。アンケートはがきの結果では、ほとんどすべての方が続編を希望しています(続編を買いますか?という質問に対して「わからない」が4通「買わない」は0、他の数千通はすべて「買いたい」)。しかも、ドリームキャストでと指定してくる方が非常に多いのです。セガはこのことをよく知っています。今一番「クロス」のことを評価しているのはセガなのです。あとはセガ次第です。セガがドリームキャストを盛り上げていくために「ワークジャム」と「クロス探偵物語」を必要とするのなら、きっと「クロス」の続編はセガで発表されるでしょう。でも、そうじゃなければソニーになると思います。

 ハードは変わるでしょうが(サターンはあり得ないでしょう)、どちらにせよ「クロス」の続編は作るつもりです。ボク自身やり残したことがあるし、なにより「クロス」は全十話なのです。だから、X探偵物語なのです(ローマ数字でXは10)。まだ書いていませんが、あと4つ話があります(「満月の夜に」はカウントしません)。新しい進展がありましたら「ワークジャム」のホームページで発表したいと思います。


 なんだかめちゃくちゃな内容になってしまいましたが、ボク自身が今感じていることをただ書いただけなので、こんな風になってしまいました。

 最後にこの場を提供してくれた「飛龍」さんと「クロス探偵物語」を応援してくれている皆様に心からお礼を言います。どうもありがとう。これからも地道にいいゲームを作っていきたいと思いますので温かく見守ってください。
 応援や意見などありましたら、「ワークジャム」に郵送してくださるか、ホームページにメールを入れてくれるとうれしいです。