拍手ありがとうございますSS「洋包丁は種類が多いけど一本あたりの単価は安いんだ」
準備は万全。
今日こそは必ず!
暗い土蔵の中で、俺は自身の“中面”に意識を飛ばす。
「投影、開始」
我が身の中にある27の魔術回路に魔力を注ぎ込む。
イメージするのは只一振り。
「――――基本骨子、構成」
届く、届く、きっと届く。
「――――構成材質、構成」
何故ならこの身は只それのみに特化した魔術回路。
「――――、基本骨子、投影」
イメージしろ、イメージしろ、イメージしろ。作るべきは何の神秘も内包されていない只の一振り。
「――っ、構成材質、投影ッ!」
ならばどうして、この身に再現できないことが有ろうか!
……出来た!
「フ、我ながら完璧だ。才能が怖い……よし、この調子で後11本……」
「え〜み〜や〜くぅ〜〜〜〜〜〜ん?」
「んな! と、遠坂! 何時からそこに!?」
「今来たところよ。そんなことより……」
つかつかと土蔵の中に入ってくるあかいあくま。奴はむんず、と俺の前に広げられていたカタログを掴んで、
「何処の世界にたかが出刃包丁一本を全力で投影する馬鹿が居るって言うのよーーーーーーーー!」
がぉーっとばかりに怒鳴られました。
「いや、だってどうしても欲しかったし」
「欲しかったからってほいほいと簡単に投影なんかするんじゃないわよ。しかも何? わざわざ自分の名前まで入れて。確かに切れ味良さそうだけど、だからって……あら? この銘って」
「ああ、○○だろ。もともと日本刀を作っている処だからな。見事な刃紋が入ってるだろ。柄は黒壇」
「へー、良いわね」
ペラペラとカタログを捲る遠坂。その手がピタリと止まった。
「……いっぽん○まんえん?」
「ああ、さすがに手が届かない。フルセットだと○十万円くらいだし。だから投影でって思ったんだけど……遠坂?」
「……ね、ねぇ。士郎。貴方カタログが有ったら投影出来る?」
「いや、出来れば実物を何度か見たい……ん、だけど?」
「ぃようし! 士郎、明日出掛けるわよ。で、私に中華包丁のセットを5セット……いや、10セットほど作りなさい。ついでに和包丁のも。これ師匠命令」
「いや……まぁいいけど?」
「ふふふ、うふふふ、うふふふふふふふ」
「?」
後日、質屋に高級包丁セットが数セット流れていたとかいないとか。
注意・中華包丁は一本○万円。ただしあまり使い分けしないため種類が少ない。和包丁の種類の多さは特筆物。ただし、長い包丁を持ち歩くのは銃刀法違反(調理師除く)だから気をつけようね!
「いや、売るんならカスタムナイフとかの方が高値かつ捌きやすいんだが……ま、良いか」
トレース・オン、とか言って流麗な装飾が施された短剣を手に出しながら、最近人気の新進気鋭な謎のナイフビルダーが、ぼそりと土蔵で呟いていたのを知るものは誰も居なかった。