こうして、俺は摩耗した 〜性技の味方に至るまで・闘争編〜





詠うように。謳うように。

I am the bone of my Libido.
体は 剣で 出来ている。

唱うように。謡うように。

Desire is my body, and Impulse is my blood.
血潮は鉄で 心は硝子。

アーチャー、弓の英霊。しかし、彼女はただの一度として弓など使っていなかった。

I have created over a thousand Ecstasy.
幾たびの戦場を越えて不敗。

それでも、彼女は“アーチャー”。遠距離戦闘を切り札とする英霊

Unknown to ED.
ただの一度も敗走はなく、

そう、ここに来て初めてわたしは理解した。

Nor aware of frigidity.
ただの一度も理解されない。

彼女は生前、弓兵なんかでも戦士なんかでも無く……。

Have withstood pain to create many situations.
彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う。

朗々とした呪文が夜の庭に響いている。しかし、これだけ長い呪文を詠唱していて、周囲にはには何の変化もない。魔術とは世界に働きかけるもの。でもこの魔術は……。

Yet, those hands will never hold anything.
故に、生涯に意味はなく。

それで呪文が完成するのか、すっとアーチャーの両手が何かを抱きしめようとするかのように前に差し出される。

So as I pray, unlimited toy box.
その体は、きっと無限の剣で出来ていた。




彼女の呪文が終わり、そしてその言霊が世界を書き換えた。
――――炎が走る。
地面を走るそれは、白線のようでもあった。
瞬時にして庭を囲った炎は境界線なのか。
炎の色が視界を覆い、衛宮邸の庭を塗りつぶしたあと。
その異界は、忽然と衛宮邸の庭と入れ替わっていた。
「……固有、結界。アーチャー……貴女……」
呆けたようにわたしはただ、呟いていた。固有結界。術者の心象風景で世界を塗り替える大禁呪。限りなく魔法に近い魔術。魔術の究極の一つ。
「そうだよ、凛。私は生前、魔術師だったというだけのことさ。魔剣にも聖剣にも縁の無かったオレは宝具なんて持ち得なかった。しかし、宝具が英霊の象徴だというのなら、この世界こそがオレの宝具。……さて、ランサー、待たせたね」
女王のように、この異界に君臨する弓の英霊。けど……、そう、けど。
「ちょっと待てぃっ!」
わたしは大地に転がっていたハリセンブレードを拾うと、全力を持って赤いキチ○イに突っ込みを食らわした。
「痛いぞ、凛」
「黙らっしゃい! アンタの出鱈目には慣れたつもりだったけど、さすがに今回のは許せないわ!」
わたしの台詞に、セイバーや桜のみならず、敵であるはずのランサーやワカメ(仮)までもうんうんと頷いている。今ここに、敵味方の垣根を越えて、わたし達は確かに今、解り合えていた。……いや、ゲ○野郎と理解しあえるとは思ってなかったけど。
「……?」
「く、首を傾げるなぁ! オカシイでしょ、どう考えてもオカシイでしょ!」
「いや、だから、何が?」
「く……とりあえず、あの呪文は何よ!」
不思議そうにわたしを見つめるアーチャー。殺意で人が殺せたらっ!
「……えっと、アンリミテッド・ブレード・ワークス(無限の剣製)?」
「どこがよ? どこをよ? それとも何。どこか縦読みするのかしら? どう斜め上に翻訳したらああいう日本語訳になるのよ!」
「――まぁ、気にするな。本編だって十分トンデモな訳だろう?」
「それでもよ! 大体……」
わたしはぐるり、と周囲の世界を指し示した。
「これのどこをどうしたら“無限の剣製”なんて世界になるのよ!」
わたしの魂からの叫びに、アーチャー以外の全員が深く深く頷いた。
塗り替えられた世界。
見渡す限りのピンクの大地はふかふかとした布団の感触を足の裏に伝え。
青い空に白い雲は、まるで天上に描かれたイラストのように不自然で。
空に浮かぶ巨大な虹色照明はゆっくりと回りながら世界を照らし。
そして。……そう、そして。その大地に無数に転がる……その、……お、大人の、……クッ、お、大人の玩具(sex-toys)ッ!
どこのラブホの部屋よ、此処は!
「えっと、しょーがいをけんとして逝きたそんざいの、たったひとつのたしかなこたえだから?」
「う、嘘をつくなぁ!」
わたしは奴の襟首をがっしと掴み、がくがくと揺さぶりながら声を張り上げた。そんなわたしを、気の毒そうな眼で見てから、視線を逸らせたアーチャー。くっ、何よ、コイツの態度はぁ!
「じゃあ、剣は深層心理における男性自身の象徴であるからして、その隠喩としての剣ということでFA?」
「そういうことをいうのはこの口か、この口かぁ! この! あ、謝れ! 日夜研鑽を積んでいる真面目な魔術師達に謝れ! 父親を亡くしながらも、10年間独りで頑張った魔術師に謝れ! 具体的にはわたしに謝れッ! UBWルートの感動に謝れッ!」
「……凛」
滂沱の涙に暮れるわたしの肩をそっとセイバーが抱いてくれた。
「……もう色々と手遅れです。……わ、私だって、長い石段とか黄金の別離とかSNルートの感動とかそういうのが台無しでは在りますが……」
「えっと、HFルートも台無しですよー」
「桜、アンタは黙れ」
とりあえず、限りなくグレーゾーンな我が妹は黙らせて、セイバーと二人、手を繋ぎ合わせた。お互いの瞳に浮かぶ深い労りと諦念。
「凛、メタな会話は止めたまえ、抑止が働く。後、女同士でそういうことは不毛だ……グホッ!」
セイバーの右足とわたしの左足が奔り、アーチャーを蹴り飛ばした。
「ランサー! ヤってしまいなさい!」
「イエス、マム!」
ノリの良いランサーがその魔槍を振りかぶり、アーチャーへと襲いかかる。
「セイバー、ランサーの援護を! ここでアーチャーを倒すわ」
「ええ、リン。了解しました」
「な! 正気か、凛。君、弱みを握られていることを忘れたのか!」
「問答無用! とりあえずアンタを殺(バラ)してから考えるッ!」
「ま、待て待てッ! ランサーはボクの兄貴なのに、何でオマエが命令してレブボフッ!」
わたしに向かって来た、ごちゃごちゃ煩い部外者を宝石を使用した魔弾で黙らせた。とりあえず倒れ込んだ部外者のワカメ頭を片足で踏み込んで、わたしは朗々と宣言する。
「いざ逝けよ戦士達、人に会っては人を切り、鬼に会っては鬼を切り、神に会っては神を切れ! さあ共に逝かんバルハラへ。此処が最終決戦よッ!」
「く、このっ」
ランサーとセイバーの連携をちょこまかと捌きながら、アーチャーの指がぱちん、と鳴った。だが何をしようとももはや彼女に打つ手は無いだろう。アーチャーよ、此処で朽ちろッ。
「って、アレ?」
ノリノリに脳内麻薬を分泌していたわたしの視界が突然漆黒に染まった。
「……ヘ? ング!」
そして口に何かが噛まされる。全身をぎりぎりと何かで縛り付けられて、わたし芋虫のように無様に転がされてしまった。
「んーんー! ん? ンー!」
「しばらくそこで拘束されてろ、凛。後でたっぷりお仕置きしてやる!」
……つまり、目隠しに口枷、手足は……ロープかしら? ほ、放置プレイ!
ただ呻くだけのわたしを置いてきぼりにして、状況は音声だけで進んでいく。け、決して手抜きなんかじゃないんだからっ!
「な、リン! お、おのれアーチャー」
「ふ、……セイバー。江戸前屋の甘味食い放題」
「クッ! ……そ、そんな、そんな甘言で、……う、裏切るわたしだと、お、思ったかアーチャーッ!」
血を吐くかのようなセイバーの叫び。な、人を喋られなくしておいてその手口とは、なんて卑劣な。
「涙目で言っても説得力が無いぞ。……ならさらにフルールのケーキとパイをホールで10種類付けよう」
「う、ううッ、わ、私は誇り高き剣の英霊、そ、そのようなゆ、誘惑になど……」
「セ、セイバーさんっ!」
迷いを見せるセイバーを、桜の声が正気に戻した。さすがわたしの妹、パーフェクトな姉に似て良い状況判断ね!
「アーチャーさんの味方をしたら、私からはビーフシチュー、寸胴鍋一杯分をプレゼントしちゃいます!」
「アーチャー、貴女は私の友だ。さぁ、何なりと指示を」
さ、桜ぁ〜〜〜〜。セイバァ〜〜〜〜〜。あんたらはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。
「な、ひ、卑怯だぞ、アーチャーッ!」
「はっはっは。勝てば良いのだよ、勝てば」
「く、良いだろう、ならば受けてみよ、我が槍をッ!」
「……それも良いがランサー。……君の背後にダンディな紳士がビキニパンツ一丁で立って居るぞ?」
「そんな戯言に釣られる俺だと思っ、た、か……ウホッ、良い漢っ!」
「今だ、セイバーっ!」
「く、何っ!」
風切り音と、ザシュっという何かを裂くかのような音が響いた。
「フフフ、それは特注品のダッチハズバント、ハマーさんだ。対ゲ○用限定礼装の一つだったのだが……いや、見事に釣れてくれてありがとう」
「お、お〜の〜れ〜、アーチャー。……だ、だが忘れるな。この世に漢の居る限り、第二、第三の俺が現れる……。忘れるな、アーチャー!」
ランサーの怨嗟の呻き声が、わたしの耳を通りすぎていく。……え、え?
「……フ、勝った。悪(ゲ○)は滅びた」
晴れ晴れとしたアーチャーの声。えっと、何が起きてるんだろ?
「……」
「……」
「……」
……? アレ、ちょっと待て。もしかしてもしかするんだけど。今、セイバー、ランサーを切り伏せちゃったりなんか、しなかったのか、な?
「……あ、ランサー……倒しちゃいました」
あ、阿呆かぁ〜〜〜〜〜〜!




体はエロく出来ている
血潮は欲で心はエロス。
幾人の萌えキャラを越えて腐敗
ただの一度の敗走もなく、
ほんの欠片も理解し難い。
踊り手はここに独り、
エロの地平で狂喜に舞う。
故に、生涯に意味はなく。
この心は、無限にエロく出来ていた。



「……これが正解よね。固有結界『無限の性具』。これで決定」
「いや、あのな、凛。人の心象風景の具現にそういったケチを付けるのはどうかと」
「黙れ、へっぽこ」
「……ハイ」
とりあえず、衛宮邸の居間。
邸内にはわたし達以外には誰も居なかった。士郎はともかく、ギルガメッシュさえも不在とは……。
とりあえず、三馬鹿を座布団無しで正座させたわたしは、一人だけ優雅な夕食を楽しみながら、思考を張り巡らせていた。
もちろん、わたしだって鬼じゃない。三馬鹿の前にはちゃんとみかん箱が置いてあり、その上にはカップラーメンが鎮座している。当然、お湯などは与えていないが。
「リン、この扱いはあまりにも酷……」
「黙れ、ハラペコ」
「ハイ」
恨みがましい目つきのセイバーに、『文句あるかゴルァ』な視線を返すわたし。さすがに先ほどの一件の事もあり、すごすごと控えるセイバー。
桜はあははは、と苦笑いしつつ賢明にも何も言わなかった。あれ、そういえば……?
「そういえば、パンツワカメは?」
「ああ、兄さんでしたら反省房に放り込んで反省して貰ってます。マッチョマンだと喜んじゃいそうなんで、こんどは女王様’sに調教させてMに目覚めて貰おうかと」
うふふふふ、と楽しそうに嗤うわたしの元妹。
「……ま、もう出番の無いワカメの事なんかどうでも良いわね」
「あはは、そうですね」
うんうん。とりあえずワカメのことはその変態スタイルごと記憶から抹消する。さて、では本題に入るとしましょうか。
「……で、アーチャー。貴女……何を企んでいるのかしら?」





注意)本編内の英語表記はいい加減な電波の産み出した夾雑物につき、文法、単語等のミスに関しては『キニスルナ』の一言を以て返答と返させて頂きます。

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