こうして、俺は摩耗した 〜性技の味方に至るまで・雷雲編〜





俺とアーチャーは並んで大広間を壁沿いにダッシュしていた。速さのみならず歩幅まで一緒という気のあいっぷりだ。
背後に突き立っていく魔剣や名剣。金のょぅι゛ょの方が怒りまくっているせいか狙いが甘くて助かっている。
「ってオマエ優先で狙ってるんだから俺と並んで走るんじゃねー!」
「ははは、何をつれないことを。マスターとサーヴァントは一心同体。死ぬも生きるも共に有るべきだろう?」
ぴょーん、と足下に奔った剣を泥棒三世ジャンプで避ける。まったく同じ動きのアーチャーと俺はまるで一対の人形のよう。
「ぅおぉのぅれ〜〜〜〜〜〜〜、ちょこまかと巫山戯た動きで馬鹿にしおって! 大人しく我が財の頑固な汚れになるが良い!」
俺とアーチャーのリンクした動きに、馬鹿にされたと思ったのか金ょぅι゛ょは激怒している。いや、まあアーチャーの方は馬鹿にしてるんだろうけど、俺の方は一杯一杯だったりするんだが。そんな俺の内心などおかまいもなく、金のょぅι゛ょから打ち出される弾丸は量を増し、雨あられと俺達の背後の壁を破壊していく。
「ラッキー、階段か。アーチャー、お前登れ。俺は外に出た遠坂達と合流する」
「む、なるほど、二手に分かれる、と。……だが断る」
「……は?」
こいつ、今、何と言った?
「このアーチャーが最も好きな事のひとつは自分の不幸に他人を巻き込むことだ。 不幸はみんなで、幸せは独り占め、人生とはかくあるべきだぞ、マスター」
「ま、漫画に影響されておかしな台詞捏造すんなーーーー!」
どこの漫画家だよ、お前!
「気にするな、登るぞ。凛たちからアイツを引き離す」
「何気なく綺麗事にすり替えて誤魔化すなよ!」
思わず突っ込みを入れた俺を、ひょい、とアーチャーは首筋を掴んで持ち上げる。そのまま勢いよく階段の上に向かって、っておい、待て。ちょっと、おい!
放り投げられました。
ぽい、なんて感じじゃなくて。びゅーーー、と耳元で風が鳴るような感じで。なんか凄い勢いでアーチャーから離れていきます。
「ば、馬鹿野郎ーーーーーーーーーー!」
「レディに向かって野郎なんて失礼だな、マスター」
俺の魂の雄叫びに、アメリカンにフランクな笑みを浮かべるアーチャー。いつか泣かす。とりあえず啼かす。ということで心の中の復讐帳(14冊目)に書き留めておく。とりあえず、二階の壁に激突して止まりました。マジで痛いです。
「ははは、どうした、金のょぅι゛ょ? 狙いが甘いぞ?」
アーチャーが朗らかに軽やかに楽しげに、階段を踊るかの如くにステップを踏みながら駆け上ってくる。
「階段は上れるかね、お嬢さん? もし登れないのなら抱えてさしあげるが?」
アーチャーの大人げない挑発に、金のょぅι゛ょは顔を真っ赤にして地団駄を踏む。……幼児退行?
「いや、体に心が引きずられているのだろうさ。さて、立てるか、マスター?」
「出来れば休みたいところだけど、そうも言ってられないんだろ?」
「ふむ、なら少し休んでろ」
ぎゅっと、俺の体がアーチャーに持ち上げられた。こ、これは……お姫様だっこ?
「な、なな、な」
「暴れるな、大人しくしてろ、死にたいのか?」
アーチャーの腕に力が入り、俺の体は彼女の体に押しつけられた。ふにょんふにょんの感触が俺の体から力を奪いさる。
たゆんたゆんのばいんばいんのふにょんふにょんに男の本能は勝てないのだ。
大人しくなった俺をアーチャーは抱え直した。その動きに合わせてゆさり、と双子の果実が俺の腹の上辺りで跳ねる。おおう、神様ありがとう。ふわっとなびく髪からは柔らかい香り。
「ああ、私の手は不肖なマスターのせいで埋まってしまった。君を抱え上げることは出来ないけど、一人で登ってこられるかね、ょぅι゛ょ?」
「ょ、ょ、ょ、ょぅι゛ょ言うなーーーー!」
ダッシュで階段に向かうょぅι゛ょ。とてとてと言う擬音が似合うほどに微笑ましい。……って、すっ転んだし。
「うわー、なんか同情してしまうな」
「ああ、……なんてうっかり。凛と気が合うかもな」
あ、立った。うわー、鼻血出してるよ。おや、眼が合ってしまった。涙目の金ょぅι゛ょの視線とと微笑ましいモノを見るような俺達の視線が交差する。
「ふ、ふふふふ、……あははははははは。貴様らそこに直れ動くな避けるな逃げるな素直に当たれぶち殺ーーーーす!」
アーチャーが廊下の奥へと飛び退いた瞬間、俺達の立っていた場所が剣山のようになっていた。
「とりあえず、逃げる!」
「逃げるなーーーーー!」





壮絶なスラップスティックコメディーを続け、とりあえず金のょぅι゛ょを撒いた俺達は、しばしの休憩を取るため、適当な部屋に逃げ込む事にした。当然、俺は自分の足で立っている。……いや、名残惜しいんだけどさ。アーチャーの方もいつの間にかいつもの赤色を身にまとっている。
「どっか鍵の開いている部屋は……何やってんだ、アーチャー?」
少し離れた場所の扉に、何処から出したのかコップを押しつけて中の物音を聞いているようなアーチャー。
「うむ、マスター。この部屋にしよう」
うんうんと満足そうに頷きながら上機嫌のアーチャー。
「……なんでさ?」
こいつが上機嫌な時は、大抵誰かが犠牲になっている時のはず。俺の経験則が警鐘を打ち鳴らしている。
「フン、抜け駆けしようとした猫が鼠に喰われたようだ。いや、この場合は猫じゃなくて蛇か。……くくく、どのような無様な姿を晒しているのか興味は無いかね?」
抜け駆け? 蛇? キーワードに少しだけ考え込んだ俺は、すぐに答えを見つけ出した。途中から姿を見ていないのは一人だけだ。
「……ナイスバディの大人のお姉さんが、禁断の青い果実の少女に蹂躙されているという倒錯的かつ扇情的なシチュ。見たくないとでも言うのか?」
見たい見たくないでいえば、当然見たい。
それにせいぎのみかたとしてはてきにつかまったなかまのぴんちをすくうのはだいじなぎむじゃないか? 
もっとも、助けようとした仲間がピーな姿だったりするのは俺のせいじゃないし。うん、そうだよな。ごくり、と俺の喉が鳴った。
「ああ、そうだ、性技の味方志望。仲間を助けるのは当然のことだ。そうだろう?」
みなまで言うな、分かっている、と俺の方をぽんぽんと叩くアーチャー。
「あ、ああ。そうだな。アーチャー」
俺たちはがっしりと固い握手を交わした。
「しかも相手のイリヤスフィールもおかしなょぅι゛ょに狙われているみたいだしな。ここは性戯の味方としては拉致、じゃない、保護しなければなるまい? そう、この扉を開くのはすべて性技にして性戯! 正しい事なのだ。さあ、肝心のシーンを見逃す訳にもいくまい。君の手で扉を開くのだ、エミヤシロウ」
アーチャーの声が天使の囁きのように俺の脳裏に染込んでいく。黒い羽とか尻尾が見えそうな感じではあるが。そのアーチャーの手にはどこからとも無くビデオカメラとデジタルカメラが。どちらも高解像度、メモリ増設済の逸品だ。しかし毎回毎回、どっから出してんだ? しかし、その思いは間違いじゃない。動画も静止画も両方残したいっていう思いは、間違いなんかじゃないんだから。
「よし、逝くぞ、相棒!」
「よしきた、相棒!」
美しい相互理解の果て、固い絆で結ばれた一組のマスターとサーヴァントは、今、天国への扉を開くのだった!




無駄に大きいキングサイズのベッドがその部屋の中央に鎮座していた。天蓋つきで、周囲にはおそらくは絹であろうカーテンが取り付けられている。
シーツはぐちゃぐちゃに乱され、枕は部屋の隅まで吹っ飛ばされ、掛け布団はかろうじて端っこだけがベッドに引っかかっている惨状だった。
その上で行われていたのは、時間無制限の変則タッグマッチ。1vs3という実力さが大きい場合にマッチメイクされるような対戦だ。しかもハンディキャップとして、一人の方は天蓋から垂れ下がるカーテンに四肢を拘束されていた。
「ア、アーチャー、た、助け、ムグ、ンーーーー」
孤軍奮闘、というか、意思絶え絶えなライダーが俺たちに気がつき何か言おうとしたが、その口は対戦相手の一人によってねっとりと塞がれてしまう。
「うむ、素晴らしい戦いだな。これは記憶に残る名勝負になるだろう」
「ああ、一方的に三人からやられっぱなしとは……ところでイリヤはともかく、後の二人って誰だろ?」
「知らんし、知る必要もなかろう。重要なのは今この時。この勝負を記憶と静止画と動画に焼き付けることだ。ほかの事は瑣末だよ」
イリヤと同じような白い肌、白い髪の大人の女性が二人。それがイリヤのタッグパートナーだった。名前が分からないので、その外見特性から片方を巨乳ちゃん、片方を貧乳ちゃんと呼称することにした。
「あら、レディの部屋にノックもなく押し入って、しかも覗き? 礼儀がなってないんじゃない?」
俺たちに気がついたイリヤが、気だるげに髪をかき上げて、ベッドから降りる。
「セラ、リズ、二人は続けてて。良い? イかせちゃ駄目よ。寸前で止めるの」
イリヤの声に軽く頷く二人。巨乳ちゃんが上半身をホールド。自身の口で、ライダーの口を塞いでいる。貧乳ちゃんはライダーの両の腿を抱えあげている。その体はゆったりとしたリズムで揺れていた。なんか卑猥な動きだ。
そしてベッドの脇に立つイリヤ。その格好がまた素晴らしかった。白い肌を飾るのは黒のガーターベルトと黒ストッキングのみという思いっきりの良さだ。余計なモノを省ききった軽量化だろう。汗で艶やかに光を反射する薄い胸とかその頂とかその他諸々とかがこう……、シンプルイズベスト?
「む、イリヤスフィール。汗をかいたままだと風邪をひくぞ。これを」
ふわり、と自身の外套をイリヤの方に被せるアーチャー。カメラ二種は例によってどこからともなく現れた三脚によって固定済みだった。
「しかしたいした手腕だな。これなら私から逃げる必要もなかったのではないかね?」
アーチャーの言葉に、ぶかぶかの外套をきゅっと抱きしめながらイリヤは肩を竦めた。
「ライダーはどう言う訳か、私みたいな可愛い子悪魔には逆らえないみたいね。トラウマがあるみたいよ。だから私でも付け入ることが出来ただけ」
「ほう、それはいい事を聞いた。そうか……ライダーはょぅι゛ょが弱点だったとは」
くつくつと悪魔のように哂うアーチャー。ああ、こいつ今、ろくでもない事考えてるぞ。
「大体、閨事であなたに勝てるサーヴァントなんて居ないのでしょう?」
「君が何を知っているのか知らんが。まぁ、現在召喚されてる連中でなら、な。相手が女性なら私がサーヴァント最強だ」
「……災凶の間違いだろうに」
ごん、と俺の鳩尾にアーチャーの裏拳が食い込んだ。
「私の知人の某女殺しの台詞だが使わせてもらおう。『生きているのなら、神だってイかせてみせる』。ま、例外も実はあるんだがね」
「あら、自身に弱点があることを暴露するのかしら」
「まあ、正直な話、それが何か分かったところで、君たちにはどうしようもないことだからな」
肩を竦めて韜晦するアーチャー。コイツの弱点。……想像も付かないな。どうせまんじゅう怖い、みたいな話だろうけどさ。
「……で、貴方たちは彼女を助けに来たのかしら?」
「いや、君が彼女を気に入ったのなら謹んで進呈しよう」
「な! アーチャー、貴女は何を、い、ン! ン、ン〜〜〜」
「いきなり喋らない。舌噛む」
話に割り込もうとしたライダーを黙らせる巨乳ちゃん。いいなぁ、俺も乳に埋もれて溺死したい。しかしまだ余裕在るな、ライダー。汗でどろどろの体を二人掛かりで責められ続けているというのに、大した精神力だ。だけど、そんなライダーに無情にもトドメを刺そうとする鬼畜が此処にいた。
「ああ、彼女は後ろの方も弱い。後で試してみたまえ」
アーチャーの台詞に怪しい目と息遣いの貧乳ちゃんが、はぁはぁ言いながら頷く。その両手はいまだライダーの腿を抱えその間に自身の身を挟みこんだままだ。……そのぁゃιぃ腰の動きといい、もしかしてもしかするんだが……。
「じゃあ、貴方たちは何をしに来たの?」
「そりゃもちろん、青い果実が肉感的な大人の女性を思うがままに蹂躙する様を見物しに来たに決まっているだろう? (金のょぅι゛ょに追いかけまわされてな。撒いてきたのでちょっと休憩をしようとしたところだ)」
「……アーチャー、本音と建前が逆」
「む。……まあ、どっちにしても大差ないから良いだろう。で、イリヤスフィール、あのょぅι゛ょに心当たりは無いのかね?」
その言葉に謎めいた微笑みを浮かべるイリヤ。
「セイバーが何か答えを言ってなかったかしら?」
「……ほう、ではやはり……」
「……前回からの、でしょうね。どういった手段を使ったのか分からないけれど、ね」
「ふーむ」
二人して真面目な顔で考え込んでいる。というか、このカオスなシチュで真面目な世界を構築されても、その、困る。俺はベッドの上の対戦カードが気になって、いまいち真面目な話にはついて行けてない。
あ、貧乳ちゃんの動きが止まった。なにかビクンビクン、としている。を、ライダーの体の上に脱力して倒れ込んだ。ちょっとだけ小休止した後、その身を起こして、再び体で緩やかにリズムを取りはじめる。
「で、どうするのかしら、貴女は?」
「そうだな。本当なら君をお持ち帰りする気だったのだが、どうも今日はそう言うわけにも行くまい」
「ええ、私も貴女のモノになんかなる気は無いわ。……お兄ちゃんのモノにならなってあげても良いんだけど!」
ぽふん、とイリヤが俺の胸に飛び込んできた。をを? ゐゐ! 何ていうか、保護欲というか、こう……ああ!
思わずキュッと抱きしめた俺に満面の笑みでぎゅーっと抱きついてくるイリヤ。外套の襟から覗く白いうなじが……おお!
俺の中で何かが目覚めようとしているかのよう。それは萌え。ょぅι゛ょという概念に対する理解の極み。
「い、いかん。イリヤスフィール。その男は野獣だ変態だレイパーだペドリフィアで口には出せない趣味嗜好の持ち主だ。危険だからこっちに来なさい」
「……」
「……」
俺とイリヤは顔を見合わせる。その眼に浮かぶのは共感。ああ、ここに鏡が必要な人が居る。まったりとした俺とイリヤの視線に、ややばつの悪そうな顔をするアーチャー。
「と、ともかく。アレの正体は君にも分からないようだな」
「ええ、普通じゃないって事くらいね。私のバーサーカーをいとも簡単に無力化してみせた。並の相手じゃないわ。で、どうする気」
「放っておく訳にもいくまい。何とかしよう」
「勝てるのかしら? 貴女に」
「戦闘で、なら無理だろう。だがな」
ニヤリ、と皮肉げな人の悪い笑み。
「戦って勝てないのなら、戦わずに煙に巻けば良いだけの話だろう?」
くるり、ときびすを返すアーチャー。
「行くぞ、マスター。奴を何とかするぞ」
おお、なんか格好良いぞ、コイツ。
「……ところでイリヤスフィール、ひとつ疑問なのだが」
背を向けたアーチャーが、そのまま更にくるりと回ってイリヤの方に向き直る。
「な、何?」
「その……さっきから気にはなっているのだが」
ちらり、と視線を貧乳ちゃんに走らせるアーチャー。ああ、俺も気になっていたんだが。
「もしかして、彼女は……生えているのか?」
アーチャーの問いに、一瞬きょとんとした表情を浮かべたイリヤは、次の瞬間、にやにやとした笑みを浮かべる。
「ふふふ、アインツベルンのホムンクルスを甘く見ない事ね。セラはその中でも最新の汎用機、性能特化の私やリズには無理だけど、オプションで生やすくらいわけは無い。しかも太さも堅さも大きさも自由自在よ。そこら辺の特殊職業の真珠入りなんか眼じゃないわ」
「ふむ、……後でその辺の話をもう少しkwsk」
どうやら、一瞬でもコイツを見直した俺が間違いでした。やっぱコイツ駄目っぽいです。





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