こうして、俺は摩耗した 〜性技の味方に至るまで・覚醒編〜




ふと、俺は目を覚ました。
時刻は深夜。何故か布団の中には桜が居る。
久々に頭がすっきりと覚醒していた。何か、妙な悪夢を見ていたような気がするが、思い出せない。
『……最近、ずっと疲労してたしなぁ……』
アーチャーを召喚してからの日々が頭を過ぎる。
ランサーを引かせ、遠坂とセイバーを打ち倒し、バーサーカーとそのマスターを退かせ、桜とそのサーヴァントであったライダーを従えさせ、キャスターのマスターであった葛木と密約を結んで今日まで辿り着いた。……アーチャーが。
その間、俺はアーチャーの道具となっていただけだった。そう、自律型の大人の玩具『シロウ1号』として。
「ぅ、ゥゥッ、ごめん、ごめん、みんな。ごめん、切嗣。ごめん、桜。ごめん、藤ねえ」
失ったものに、汚されたものに、巻き込まれたものに、裏切ってしまったものに、俺はただ、涙を流して謝った。
              唐突にドクリ、と心臓が鳴る。
そうだ。それというのもみんな、
              覚醒した思考が赤く染まる
あの、赤い外套の、
              怒り、悲しみ、憐憫、憎悪、嫌悪、快楽、愛情、狂喜
あの、白い髪と褐色の肌の、
              感情が混線する、思考が氾濫する
あの、俺の、サーヴァント/奴隷、が/のせいで、
              は、はは、あははははははははははは、
そうだ、何で気がつかなかったんだろう。
彼女は俺をマスターだと言った。そう、彼女が言ったんだ。
「は、あははははは、あはははははは。そうだ、なら、俺が教育しないとな」
言うことを聞かないモノには躾が必要だし。赤く染まった視界の中、俺はふらりと外へ歩き出した。背後にはくすり、と笑うさクら。

居ない、
  居ない、
    いない、
       イない、
         イナい、
           イナイ、

邸内には誰も居ない。そうか、誰も居ないのなら邪魔は入らない。それは良い事だ。実に良い事だ。
ふらふらと邸内を徘徊する俺は、最後に土蔵へと足を踏み入れた。

イタ、かのジょが、イた

土蔵の中央で、何かを祈るかのように立ち尽くすアーチャー。俺の気配にゆっくりと振り向く。
「……どうした、マスター? まだ深夜だ、眠った方がいい。人の身には睡眠は必要だ。さっきまで桜とだろう? 彼女は水気の多い娘だからな」
「アー、チャー」
「……どうした、士郎?」
俺は無言でアーチャーの肩を掴むと、その唇を貪った。
「! ン、ンム、ム〜〜、ン、ック、操られたか! くそ、イリヤか? ……って凛、何覗い、て、ンム〜〜〜!」
俺を押しのけようとするアーチャー。抵抗が鬱陶しいことこの上ない。
「令呪によって命じる。アーチャー、大人しくしろ!」
「な、馬鹿かマスター、なんてことに令呪を、く、凛、君の仕業、か。……って、こら! 士郎、なに脱がしてる、どこ触ってる、というかここじゃ駄目だって、ちょ、ちょっと! お、覚えてろ凛!」


15分後
「っく、この早漏駄犬! ッん、自分がイくだけとはどこの野良だ。ァ、ク……まったく、男の風上にも置けん畜生め、去勢でもしてしまえ!」
何か彼女が綺麗な声で叫んでいる。なんてイイ声でナくのだろう。もっともっと聞かせてもらいたい。


一時間後
「ハァ、ハァ……貴様……いい加減に、クッ、この! 女体に溺れて溺死しろ!」
ああ、そうだな、俺、溺れちまってる、ハ、ハハ、何を今更。


四時間後
「ァ、ハァ…………27、27回イってまだタつだと。貴様一体どこから、ハゥン、ア、も、もぅ……く、そうか。彼女の鞘の守り、か、ンッ、フ」
そんなこと知らない。俺がまだイけることに、なにか俺の預かり知らない原因があるというだけ。なら今は全力を持って目の前の相手を打倒する。


七時間後
「も、もぅ嫌、ゃだ。ぁ、ぁ、も、もぅ、止め、ぁう、ぅ」
本気で嫌がっているのかじたばたと俺の下でもがく彼女。だがまだだ。まだ届かない。けど、もうちょっとで届く。
『体は……体は■で……』
彼女へのラインを割り開く。届く、届く、届く、きっと届く!
流れ込んでくる“ナニカ”は俺の魔術回路を蹂躙し、脳髄へと駆け巡る。
……書き換え、られていく。
衛宮士郎が書き換えられていく。
「ハ、ハハ、あはハハははハハハハはははははははは」
俺を押しのけようとする手が邪魔だ。
     手枷と鎖が良いだろう。
俺の動きをじゃましようとする足が邪魔だ。
     なら足枷が良い。首にも飾りを、首輪を呼び出し足枷と皮ひもで繋げてしまおう。
呼び出した道具が俺の意思どおりに彼女を縛る。可愛く啼く声が聞きたいから口枷は付けずにおこう。
ああ、いい気分だ。実にすっきりとしている。
「ひぁ、な、なんで……なんでぇ……しろ、う。それ、駄目、それ使ったら、戻れ、な、ひぁ」



         「ね、ねえ……なんか……ヤバくない?」
         「え、ええ。……リン、止めに入りますか」
         「……ね、狙いがこっちに来たらどうする……?」
         「せ、静観しましょうか?」
         「……そうね」



七時間三十四分後
面白かった。最高だった。触れている体から解析結果が流れ込んでくる。何処をどうすればどんな反応が返ってくるのかが“解る”。だから俺は楽器を弾くように彼女の体を“奏でた”。
唐突に変わった俺の攻めに戸惑い、流され、啼き続ける彼女。今や息も絶え絶えにそれでも体をくねらせ、声をあげる。

十六時間四十二分後
「……あれ?」    
嫌になるほどすっきりと冷静に帰る俺。何故か俺の下には意識不明でどろどろに汗とかもろもろでてらてらとぬめるアーチャーの裸身。
眼は虚ろで、形のよい美しい乳房が呼吸に伴い、緩やかに上下しているだけ。他の反応はまったく無い。
「うわっ! アーチャー、おい、アーチャー!」
俺は大慌てでぺしぺしとアーチャーの頬を叩いた。
「ぅ、……ぅ、ん。……しろ、ぅ?」
「ぁ、ああ、あの、アーチャー、……さん?」
ぼんやりと虚空を見ていたアーチャーの瞳に徐々に意思の光がともり、
「ぅ、……ぅ、……ぅ」
その両目にみるみる涙が盛りあがり、
「ぅ、ぅわぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、この士郎の馬鹿チンがぁ〜〜〜〜〜〜〜! ぅわぁ〜〜〜〜〜〜〜ん!」
大号泣が始まりました。なんでさ。いや、俺が悪い、とは思うんだけどさ。
「ぅ、う、う、私頑張ったのに、こんなに頑張ってるのに、それなのに……ぅわ〜〜〜〜〜〜〜ん! この馬鹿チン、早漏、エロガッパ、節操なし、変態、性欲魔人、レイパー、衛宮士郎〜〜〜〜!」
「いや、あのな。というか俺の名前は悪口か?」
「黙れ略してEROU貴様に言葉を発する権利なぞ無い。…………ヒック、ヒック……ぅ、ぅ、ぅわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
なんて言うか、……幼児化?
「いや分かった、だから落ち着こう? な? アーチャーは頑張ってるから。俺が悪かったから。な? な?」
「ぅ、ぅ、わ、私だってそんな好き好んで士郎襲ったり凛襲ったりセイバー襲ったり桜襲ったり藤ねえ襲ったりライダー襲ったりしてないもん。イリヤは狙ってるけど、だからってそんなに好きモノじゃないもん。人よりちょっと攻めが巧くて可愛い女の子とか格好いい男の子が好きでSっ気があって気に入ったモノを啼かせてみたりしたいお茶目さんなだけだもん。せーはいせんそうで士郎が犠牲は出したくないって言うから頑張ったのに、頑張ったのに、がんばったのにぃぃ〜〜〜〜〜〜」
何かものすごくダメな台詞をダメダメな人が喚いています。それでも、■■の味方としては、泣いている女の子をそのままにはしておけないのです。……アレ? なにか感じた違和感は、しかしアーチャーの泣き声に押し流される。
「あー、うん。俺が悪かったから……な?」
「分かってない! 全然分かってない! だって士郎、放っておくと性格の悪い皮肉屋でロクデナシの大馬鹿者の朴念仁の分からず屋の守護者になっちゃうんだもん。だから私、がんばって士郎がじんせーってたのしーさいこーって思えるように、もっとオンナノコのキモチとかわかるように、ひととひととが繋がる事の大切さを覚えていられるように、もしそこに至ってもみんなのことを忘れないようにしようと、しようと、ぅ、ぅ、……ぅわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

結局、アーチャーが泣きやむまで追加で15分ほどかかりました。なんていうか、もう時刻は夕方です。
「ね、士郎」
俺の胸に顔を埋めてしゃっくり上げていたアーチャーが小声で呟く。
「……今言ったことは全部忘れて。気にしないで」
「……ああ。その何だ。……悪かった」
「全くだ、未熟者」
「ああ、ようやくいつものアーチャーだ」
「うるさい、黙れ粗忽者。大体貴様は……いや、止そう。お互い酷い格好だ」
立ち上がろうとしたアーチャーだったけど、ぺたん、と尻餅を付く。おいおい、と助け起こそうとした俺だったけど、……立てなかった。
「こ、腰がイタヒ……」
「ヤりすぎだ馬鹿者。私も腰が抜けて立てんではないか」

「……それは好都合です」
「へ? え、ええ? セイバー?」
なぜだか黒い笑みを浮かべたセイバーが土蔵の入り口に立っていた。
「申し訳ありませんがシロウ。次がつかえていますのでそろそろ……」
「いや、無理! 絶対無理。もう俺腰立たない、というか寝かせてくれ」
慌てる俺ににっこりと天使のような極上の笑みを浮かべるセイバー。あれ、なんで背中に寒気が走ってるんだろう?
「……ええ。シロウは寝てくださって結構です」
「……へ?」
ぐぃっと俺と同様に腰が立たないアーチャーを抱えあげるセイバー。
「え? え? え? え!?」
「さあ、アーチャー。次は私と凛であなたを可愛がってさしあげます。そうですね……八時間ほど」
「え? や、も、もう無理。やめよう? ね? 後で可愛がってあげるから、ね?」
「誰があなた“に”可愛がって欲しいと言いましたか? あなた“を”可愛がるのですよ」
「……へ?」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。ちなみに次はライダーと桜です。キャスターも是非に、とのことでした。その後でタイガも呼んでまいりましょうか。そうですね。予定では後二十時間ほど頑張ってください。ま、予定ですが」
怖! セイバー怖! 上機嫌な捕食者オーラがヤバイぞ、あれ。下手すると俺まで喰われてしまう。
「え、し、しろ、士郎、た、たす、助け」
わたわたと俺に手を伸ばすアーチャーに俺は心の中で合掌した。スマン。
「あー、無理。腰が立たない。まぁ、因果応報だし。なにより止めると俺まで巻き込まれる。というわけで頑張って逝って来−い」
「な! 裏切ったな士郎。アーチャーと同じに、私の気持ちを裏切ったんだ!」
いや、お前がアーチャーだろう? 心の中で突っ込みつつ、俺はどっかの寝床へドナドナされていく涙顔のアーチャーを見送るのであった。










幕前のお話



某月某日某時間、某市某町某邸某室。
「皆様、本日はお忙しい中をお集まりいただきありがとうございます。司会を勤めさせていただきますR・Tと申します」
中央にただぽつんとロウソクが灯されただけの薄暗い室内には複数の女性のシュルエットが存在していた。何故か彼女たちは蝶最高な仮面で顔を隠している。
「なお、ここでの会話はすべて匿名とさせていただきます。ご了承ください。また、この部屋は完全に結界で覆われていますので、ここでの会話が外に漏れることはございません。どうぞ安心くださいますよう……」
「まったく、わざわざこんな深夜に呼び出したかと思えば……」
「結界作成にご協力感謝いたしますわ、英霊C」
紫色のローブの女性に優雅に一礼する司会者R・T。
「お任せください。お望みの今時代の戸籍、きちんと準備させていただきますわ。なんでしたら婚姻届も準備させていただきますが?」
「あ、あら。気が利くわね。さすがこの街の管理人」
「R・Tです」
「コホン、失礼。R・T」
「ところで姉さ、R・Tさん。こんなところにみんな呼び出していったいなんなんです?」
挙手をしながら姉より(体の一部分が)優れている妹が意見を述べる。
「ふむ。良い質問ですS・Mさん」
「あ、あの……姉さん、頭文字は止めてください。と言うか、結界張ってあるのなら匿名にする必要も無いじゃないですか」
「浪漫の分からない子ねぇ」
「リンの頭の中が分かりませんが……」
姉妹の掛け合い漫才に突っ込みを入れる英霊Sと、
「珍しいですねセイバー。意見の一致を見るとは」
その意見に同意する英霊R。以上が、この部屋に居る全員であった。
「ま、良いわ。聖杯戦争だというのに、集まってもらったのは他でもないわ。わたしたちには共通の敵が居る」
渋い声で決める司会者。
「……バーサーカーとそのマスターね?」
しかし、それに対した英霊Cの台詞に場は沈黙した。
「……」
「……」
「……」
「……ああ、そんなのも居たわね」
「初回に出てきて以来、出てきてませんね」
「逃げてるんでしょう」
「そりゃ逃げるでしょうね」
冬の室温が何故か生温く変わっていく。
「ま、まぁ、バーサーカーのマスターよりなにより! 一番の敵が居るでしょう。それも身近に。赤いのが!」
話を変えようとする司会者。
「リンのことですか?」
「姉さんのことですか?」
「あんたら主従はぁ……。違うわよ。アーチャーのことでしょ!」
それに対する賛成意見は、
「マスターの意見には全面的に賛成です」
「ええ、彼女は危険ですね」
英霊Sと英霊Rの二人。
「えー、アーチャーさんはいい人ですよ?」
「あら、良い子よ。あの子?」
S・Mと英霊Cは擁護組に回る。
「とにかく! まともな聖杯戦争をするには彼女を何とかしないと!」
がおーっと叫ぶ姉に、
「えー。良いじゃないですか」
のほほんと突っ込む妹。
「……彼女を排除すれば士郎分の分け前が増えるわよ?」
「姉さん、あなたについていきます!」
黒い密約にがっし、と姉妹の手が組み合わされる。
「あ、私はその話は降りるわ。彼女には借りもあるしね。中立ということで」
英霊C。彼女はアーチャーに夜の夫婦生活のアドバイザーをして貰っている関係から中立に立つことにした。
「ま、あんたの立場なら仕方ないわね。セイバーは?」
「もちろん、マスターの意見に賛成です。彼女は危険すぎる」
うんうんと頷く英霊S。
「ライダーは?」
「……勝算はあるのですか? 彼女は一筋縄ではいきませんよ?」
こちらは戦術を練る英霊R。
「ええ。わたしたちでは彼女とまともに戦えないわね。おかしな方向に捻じ曲げられる。なにより、弱みを握られすぎてるし」
「あー。……姉さんは特にねぇ……ネガ、見つかりました?」
「……見つからないわよ……こうなったら彼女もろとも隠滅するしかないわね」
妹の台詞にうなだれる姉。アレが世間に出ることがあれば身の破滅どころでは済みそうにない。
「しかし、彼女はバーサーカーのマスターに対する抑止力です」
「なら彼女の弱みを握るしかない、か。そこで、よ」
「ええ」
「わたしたちでは無理でも、彼女に対して強いアドバンテージを持つ人間が一人居るでしょう? 彼女はサーヴァント。となれば?」
全員の顔に理解が走った。
「ああ、なるほど」
「確かに……マスターである士郎なら令呪がある」
「つまり先輩を動かすわけですね」
「そそ。暗示でも薬でも良いから何とかして彼女に対するアドバンテージを取ってもらう」
「それならいい薬があるわよ?」
「降りるんではなかったのですか、キャスター?」
「私はただ、薬の販売をしているだけよ? 新婚って物入りなのよねー」
「薬と併用で、私が夢の方から干渉するのはどうでしょう?」
「あ、じゃあ、私、布団の中で暗示かけます」
「好きモノねぇ」
「えー。だって先輩とですしー」
こうして、話は動き出した。








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