こうして、俺は摩耗した 〜性技の味方に至るまで・陰口編〜





「モザイク、一つ〜一つ〜♪」
アーチャーの鼻歌が深い森に響いています。
「除去しーたら、無修正〜になるぅ♪」
とはいえ、時事ネタのアニメ替え歌はシーズン外すと意味不明のネタに過ぎないのですが。
しかし、いったいどうしてこうなってしまったのでしょう?
疑問に答えは無く。私、バゼット・フラガ・マクレミッツは奇妙で奇怪な一団と行動を共にすることになってしまいました。
むむむ、おかしいですね。確か当初の予定では、サーヴァント・ランサーを相棒に、この聖杯戦争を華麗に戦い抜いている筈でしたのに、どこで予定が狂ってしまったのでしょう……。
――考えるまでも無いですね。あの言峰とこの冬木で再会したところからに決まってます。しかしまさか、あの言峰が幼児愛好主義者だったとは……。
私は自分の身体を見下ろしました。やせっぽっちの小さな体。手足も短く、筋力も無い。まあ、邪魔だった胸がなくなったお陰で手の稼動範囲が広がったのは有り難いですが。
む、な、なんです、冬木の管理者。その仏血KILLな視線は?
ともかく。
あの変態に左手を切り落とされ、そしてょぅι゛ょにされてしまった私ですが、とりあえず新しいサーヴァントをゲットして、いまだゲームの盤上に残っています。
まあ、現界するのに魔力が足りないとかで、あんなことやそんなことやこんなことや、あまつさえ“ピー”なことまでさせられざるを得ませんでしたが、その程度の事でサーヴァントを手に入れられたのですから十分必要経費でしょう。……支払ったのは私の羞恥心とかそんな感じですが……。ええ、瑣末です。
私は左手を握り締めて、決意を新たにしました。
そう、今の私には左手があります。
私の新たなるサーヴァント・アーチャーが、何処からとも無く取り出した義手が装着されているのです。

「うむ、これなんかどうだろう」
「あ、格好いいですね、鎧みたいで」
「な! 待て待て待てぃ、アーチャー。それ何処の鋼の封印指定執行者? しかも左右逆だし!」
「む、ならばこれで」
「おや、奇妙な形の……銃ですか、この義手は。これは使用できるのですか、アーチャー」
「うむ、持ち主の精神力を弾丸としてだな……」
「違うでしょう! 何処の宇宙海賊なのよ、何処の?」
「むむ、我侭だな、凛。ではこれなんかどうだろう?」
「うーん、それならまだマシね……」
「とはいえ、それなりに感情を持っているバゼットにくっつけても動かないんだが」
「意味無いわね……」
「むむむ……ならばこれでどうだ」
「わぁ、ピーターパンのフック船長ですか?」
「違うぞ、桜。これは正義の味方の右腕を左右逆にしたものだ!」
「うわっ、アンタの口から正義なんて……似合わない言葉が出てきたわね」
「放っておいてくれたまえ。これはな、悪の秘密結社と戦い、最後はプルトンロケットと共に自爆した英霊の腕だぞ!」
「だーっ、普通の腕は無いのかしら! ょぅι゛ょにそんなの、似合わないに決まってるでしょ!」」
「むむむむ。……確かに、それは盲点だったな、ょぅι゛ょにくっつけるんだった……」
「……バー○ーカー体とかイマ○ノス体とかも却下だから」

という紆余曲折の末、今の私には外見だけは普通の? かどうかは分かりませんが、左手が装着されています。しかし、中指の爪が赤いのは如何してなのでしょう?
「ああ、だが機能までは再現できなかった。流石にあれは魔法の域だからな」
「そんなもん再現しなくて正解よ、まったく、何てものを引っ張り出してくるのかしら、アンタは」
「ふふん、それが妄想の果てにあるものならば、何だって取り出してみせよう! この身は、ただそれのみに特化した妄想回路!」
「ふざけてんじゃ無いわよ。そもそもキモウトはもう間に合ってるんだから!」
「な! ね、姉さん、誰がキモウトなんですか、誰が!」
「さぁ? 別に私は誰のこととは言ってないわよ? それとも桜には心当たりがあるのかしら?」
「あ、あるわけ無いじゃないですか!」
ぎゃんぎゃんと言い争う姉妹の姿。えっと……。
「この左手は危険なものなのですか、アーチャー?」
「……安心したまえ。腐った果実の臭いも発生させないし、もちろん、冬木の町に赤い雪が降って、時間が巻き戻ったりすることも無い。安全この上ない義手だとも」
そんなアーチャーの台詞に、ぎろり、とリンさんの視線が動きました。
「……本当に無いんでしょうね、アーチャー? 気がついたら聖杯戦争序盤に戻ってましたなんてそんなことがあったら……あったら……、それも良いわね。今度はアンタを抹殺出来るかもしれないし……で、出来ないの?」
「出来るか、そんな非常識な真似」
「まあ、確かに。時間遡行は魔法の領域でしょうし。そんな裏技がほいほいとお気軽に出来るのなら苦労はしませんね」
私の言葉に、何故かアーチャーが考え込みます。
「あー、時にマスター。何度も何度も聖杯戦争を繰り返させる能力を持った、性格の腐った、信用出来ないサーヴァントが居たら、君は契約するかね? ちなみに戦闘能力は対サーヴァント戦で役立たずレベルだが?」
「状況にもよりますが、さすがにそんなサーヴァントは御免蒙りたいものですが。それが何か?」
「…………いや、何となくだ」


そんなわけで私達一行は、早朝の深い森を分け入り、アインツベルンの城へと向かっている処です。ちなみに一人だけコンパスの幅が違う私は、上機嫌なアーチャーの肩の上だったりしますが……結構恥ずかしいですね。
「……そういえばこの地面に残っている、何か引きずったような跡は何なのでしょう?」
「気にしないで、バゼット。何処かのハラペコ大魔神の仕業だから」
私の呟きに、横を歩いていたリンさんが吐き捨てるように答えを返しました。その額には青筋が浮いています。
「ええ、そうですとも、バゼットちゃん。気にしちゃ駄目ですよ。本当に、マスターもマスターなら、サーヴァントもサーヴァントですね……ふふふ」
「言ってくれるわね、桜。……そういえば、あの時の決着がまだ付いてなかったわね、ふふふ」
「うふふふふふ」
「うふふふふふふふふ」
仲良く笑う姉妹の姿は……その……苦々しいものなのですね。
「二人とも、いい加減にしておいたらどうでしょう? 姉妹が争う姿はいささか醜悪だと思いますが?」
「アンタが言うな、セイバー!」
「セイバーさんにだけは言われたく無いです!」
やれやれと肩を竦めるセイバーに向かって、姉妹の絶叫が襲いかかりました。……ほ、本当に仲が良いことですね。……とりあえず、話をすり替えましょう。さすがに乱闘等は時間の無駄ですし。
「ところで……衛宮士郎君というのは、どういう子なんですか? 話を聞く限りでは、何らかのキーパーソンのようですが?」
「あれ、バゼットは知らないんだっけ?」
私の台詞に首を傾げるリンさん。
「言峰と深く情熱的な接吻を交わしていた少年ですよね? その後、メロメロになって気絶して、そしてょぅι゛ょ化してましたが……」
ええ、アレは驚きでした。眼が覚めると、目の前に言峰と少年の情熱的な接吻が繰り広げられていたのですから。思わず、私の部屋のベッドの下に隠してある秘蔵コレクションオフセット誌のワンシーンを思い出してしまうほどに。まさか、リアルでああいうシーンを見ることが出来るとは。少年に覆い被さるようにしてその唇を奪う神父。驚愕に見開いた少年の瞳はやがて潤み、その身を押しのけようとした手は、やがて神父服を握りしめ、そしてそのまま、教会の地下室で禁断の……。ああ、パニックのあまり言峰を殴ってしまいましたが、惜しいことをしてしまいました。せめてもう少ししっかりきっちりがっつりと観察しておくべきでした……。
「……うわ、綺礼と」
「……せ、せ、接吻って、キ、キスですよね! せ、先輩って先輩って、男もOKな人だったんですか!!」
「いえ、どう考えても神父の不意打ちでしょう? シロウにそっちの属性が在るとは思えませんが」
む、それは……面白味に欠けますね。ということはアレですか。綺礼がその気の無い少年を強引に奪おうとしていたわけですか。……うーむ、それはそれで……。
「いやいや、分からんぞ。士郎はファザコンの気が有るからな。年上のオトコのミリキにクラクラとキても不思議は有るまい?」
私の下から、アーチャーの台詞が響きます。ふむ、つまり、その士郎君は、言峰に父親の面影を見てしまうわけですね。そうして、その強引さに流されてフラグを立ててしまう、と。
「そ、そんな……、先輩、まだ新しい世界を開拓するつもりなんですか……ふ、ふふふ。いけない人ですね……。虚乳な人とかちっちゃい子とか大人の女性とか人妻とか金髪とかだけでは飽き足らず、オニャノコになったからと言ってオトコにまで食指を伸ばす気なんですか、ふふふ、これは一度じっくりと真実の愛を教え込んでさしあげなきゃ駄目なんですね……うふふふ。うふふふふ」
暗く嗤いだしたサクラさんの影が突然に拡大していきます。その空間が歪み……中の空間が……って、あれ、は?
「さ、桜、黒くなってる、黒くなってるから!」
「あ、ごめんなさい姉さん。……なんか見えました?」
貼り付けた笑みを浮かべたまま、サクラさんはぎぎぎっと錆びた歯車のように私達を見渡しました。とりあえず、全員で首を横に振っておきます。
「な、何も見えなかったわよ!」
「そうですよね。恥辱ワカメ調教遊戯上級編なんて見えなかったですよね? うふふ」
「……アンタの影の中がどうなってるのか見てみたいわ……」
「あら、一度入ってみますか?」
「いえ、結構!」
そうですか、私の妄想じゃなかったようですね、サクラさんの影の中の風景は。その……純情なょぅι゛ょが口に出すのは憚られるような光景は。年若い少年が目隠し口枷全身緊縛の末、ピーな女性達にピピー、でピーなピーったピーーーーーーーーーーーッ! たのは。しかし――。
「……持ち込んだのでしょうか、それとも作り出したのでしょうか、あのワカメ少年の周りに有ったアレなアイテムの数々は……」
「いや、私が投影したものだが?」
「って、犯人はアンタかい!」
思わず呟いてしまった私の疑問に、当然のように答えるアーチャーと、それに突っ込みを入れるリンさん。しかし投影とはマニアックな魔術を使うのですね、アーチャーは。
「とにかく、話を戻すぞ。気にしてると色々と危険だからな」
「ええ、暴走されると私達も危険だしね。で、なんだったっけ。士郎がどんな奴かって話だったわよね。でもそう言われても……ね。とりあえず元サバのアーチャーさん?」
私の真下のアーチャーにマイクを向ける振りをするリンさん。
「うん、私のモノだから手を出さないように」
「はい、ありがとうございます! 期待を裏切らない馬鹿でした。……では、付き合いの長い間桐さんちの桜さんは?」
リンさんは引きつった笑みのまま、今度はサクラさんに向かいました。突然振られたサクラさんは、「え? え!」と焦りながらも。
「え、せ、先輩ですか。そうですね。硬くて熱くて持続時間が有りますよ。テクニックはまだまだですけど、才能は有るみたいですよね。なにより回復能力が凄いんです! 抜かずに5回6回は当たり前にこなしちゃいますから! 前も後ろも上も挟まれるのも大好きですからその辺のこだわりは無いみたいですね。あ、でも背面騎じょ……」
思いっきり危険な台詞を口走ってます。その言葉を、リンさんは大声で遮りました。
「はいっ!ありがとうございましたっ! と言うかアンタそれ以上喋るな! 放送禁止用語のオンパレードになっちゃうでしょ! まったく。セイバーは?」
金糸の髪を靡かせる最優のサーヴァント・セイバーが、リンさんの問いに軽く首を傾げます。
「ええ、私の時代に彼のような騎士がいてくれたらきっと我が国は違った歴史を歩んでいたでしょう」
「あら。随分と普通に高評価ね」
「ええ。シロウの食事が在れば如何なる困難とて乗り越えられていた筈です。間違いなく我が国が世界に覇を唱えていました」
「……飯使い扱い、ね」
「い、いえ、別に食事だけでは無くてですね、士郎には他にも良いところがですね、たとえば……、その……、えっと……、ですから…………そ、そういうリンはどうなのです?」
何も思いつかなかったのか、リンさんの問いに問いで返すセイバーさん。……しかし、その士郎君という子はどうにも……。
「え、私? うーん。単なる同級生かしらね」
リンさんの返事に、私以外の全員が何故かリンさんに白い目を向けています。
「嘘ですね」
「嘘だな」
「嘘を付いてますね、リン」
「う、嘘じゃないわよ!」
「えーっ、うっそだぁ。だって初めての時、士郎にしがみ付いて離さなかったしー」
「他の人が先輩と話していたら、自然な感じで邪魔をするんですよね、姉さんは」
「それでいて、自分から誘えないんですよ、リンは……ヘたれですよね」
「つまり……」
私の合いの手に、全員の声が合わさりました。
「「「ツンデレ?」」」
「こういうときだけ協調性出してハモるなーっ!」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ全員を眼下に置きながら、私は今の情報を吟味しました。
「えっと、つまり、ですね」
「うん?」
私は首を傾げながらも、私の中で組み立てた衛宮士郎像を言葉で表してみました。
「士郎君というのは女性に片っ端から手を出していて、かつ現在では男性にも食指を伸ばそうとするエロリストでFAなのでしょうか?」
「……」
「……」
「……」
「……ちょっと待ってね。作戦タイム」
全員が額を付き合わせて会議を始めました。いえ、私はアーチャーの頭の上に居るので丸聞こえなのですが?
「ちょっと、どうやったらそう言う人物像に……なるわね、確かに」
「間違ってはないな、EROUだしな」
「昔はもうちょっと……真面目だった筈なんですけどね」
「人間、墜ちだしたら早いという見本みたいなモノですかね」
「あ、でも、これでバゼットさんが先輩を警戒してくれたら、ライバルが減りますね!」
「! ……ま、まあ、これ以上際限なくフラグ立てられても、その、困るわよね。倫理上というか道徳上というか……」
「リンも素直じゃ無いですね。分け前が減ると言えば良いじゃないですか」
「うるさいっ! まあ、とりあえず結論が出たわね」
「ええ」
「そうですね」
「そうだな」
目を見合わせた一行は深く頷き合いました。どうやら、何らかの共通認識、ないし利害の一致を見たようです。
そしてリンさんが何とも言えない素敵な笑顔で私に向かって親指を立てました。
「エロリストでFA! 二人っきりになんかなっちゃ駄目よ、バゼット」
……なるほど、あんな真面目そうな少年が、実は大変危険な人物だったというわけですか。これは注意しないといけませんね。





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