だから一振りの剣になってしまえばいい。






多分、火災があったのだろう。それも家の一軒とか二軒とかの規模じゃないような。
気が付いたら世界は灼熱に彩られていた。
認識は不確か、確認すら不可能。だって其処には私しか動くものが無かったのだから。
纏わりつく熱気が肌を焼く。



熱い。



でも熱いと感じるのなら生きているという事。
生きているなら生きる努力をしなければいけない。熱に浮かされた思考は本能の領域で生存を望み、体はそれに従った。



熱い。



じりじりと体を焦がす世界をふらふらと彷徨する。
どこまで歩いても似たような世界。焼け崩れた廃墟と活動を停止したモノと活動を停止しつつあるモノ。手を伸ばしたり、なにか啼いているモノも居た。
それでも私は歩くことを止めなかった。



熱い。



だから一振りの剣になってしまえばいい。
ただの子供だと耐えられないから。

等しく死が支配する世界。

沢山の怨嗟が在った。沢山の怒りが在った。どうすることも出来ないからただ歩いた。
心を鋼に。鋼は痛みを感じない。

沢山の懇願が在った。沢山の悲しみが在った。耳を塞ぐことも出来ないからただ歩いた。
心を刃に。刃は傷みを切り捨てる。

灼熱の中をただ歩いた。喰いしばった歯も握り締めた拳も流し続けた涙ももう何処かに落としてしまった。
廃棄場じみた赤い業火の世界を、一振りの鋼となりてただ歩く。

だからもう、痛みなんて無い。
だからもう、喜びなんて無い。
だからもう、悲しみなんて無い。
だからもう、怒りなんて無い。
だからもう、哀れみなんて無い。
だからもう、恨みなんて無い。
だからもう、絶望なんて無い。
だからもう、希望なんて無い。

そう、だからもう、自分なんてものも無い。

気が付いたら何時の間にか空を仰ぎ見ていた。歩くことを止めてしまった体が立っていることを維持できずに崩れ落ちる。
救いを求め最後の力で空に向けて手を伸ばそうとして……止めた。

誰も助けられなかった私を誰が助けてくれるというのだろう。

空には、私を嗤う黒い太陽。











意識を手放す瞬間、
























人の足音と、































誰かの掌が頬を撫でるのを、
































感じた気がした。






























I am the bone of my sword.
体 は 剣 で ……








































「生きている……生きていて、くれている。…………ああ!















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