2007年謹賀新年SSS「ある母娘(?)の情景」





「ちょっ! キャスターっ! 自分で着られるって!」
 今だ慣れる事のないちびっ子な体に白い襦袢を纏いながら、俺は何かと世話を焼きたがるキャスターを追い払おうとした。
「そ、そんな……折角、私、着付けの勉強までしたのに……そう、もう反抗期なのね……お母さん、悲しいわ……」
 そんな俺の反応に、よよよ、と泣き崩れる真似をする留め袖姿のキャスター。というか、それの着付けをしたのも、着付けを教えたのも俺だろうに。そもそも、反抗期も何も、ココロはいまだに青少年、綺麗なお姉さんに自分の体をまさぐられるのには抵抗があるのだ。

 ……体はょぅι゛ょだけどさっ!!

 色々と、本当に色々とあった昨年から早くも一年近くが過ぎ、俺、かつての衛宮士郎は、平穏な生活を……取り戻せなかった。あの時、色々あったけれど、結局元の姿に戻ることの出来なかった俺は、現在、衛宮邸に暮らしながらも、戸籍上は葛木夫妻の一人娘ということで、○学校へと通う日々を過ごしている訳だ。何と言うか……。は、はははは、あはははははは……ハァ。笑うしかないな。

「っと、完成」
 とか考えながらも、きゅっきゅっと帯の位置を直して、とりあえず着替え終了。その間に、程よく伸びた髪は、キャスターの手によってやたらと面倒な感じに編み込まれていた。鏡台に自分の姿を写して確認。うん、キュートだ!
「よし、可愛いぞ、俺」
 やけくそ気味にそんなことを言いながら、振り袖の袖を翻して鏡の前でポーズを取ってみた。鏡の中に居るょぅι゛ょも同じポーズを取る。
 やや褐色の肌。色素が抜け始めて赤色が栗色にと変わり始めている髪。幼いながらも何処か達観した顔立ちを、やや引きつった笑みで彩りながら。
 鮮やかな緋色濃淡染めに茄子紺を奔らせた生地、歯車をモチーフにした刺繍。何処で手に入れたんだ、こんな反物。
「ええ、可愛いわ、シェラ。でもね、まだ足りないものが有るわね」
 そんな俺を微笑ましく見詰めながら、ぱたぱたと自分の前の座布団を叩くキャスター。ちなみにシェラというのは俺の、まぁ、ょぅι゛ょ名だ。戸籍上の母親であるキャスターも、そして今の俺も、どう見ても国産の外見をしていない。と言うことで、ギリシャ系アメリカ人の戸籍を偽造したとかなんとか。もちろん、この街の管理者の仕業である。
「足りないものって、なにさ?」
 ぱたぱたと叩かれた座布団に正座しながら、俺は口を尖らせた。そんな俺の前に座ったキャスターは、にっこりと微笑みながら手にしていた小箱を開く。
「げ!」
 その中身を認識して立ち上がろうとする俺を、やんわりとキャスターの手が引き留めた。
「駄目よ、シェラ。今の貴女は女の子なんだから、着飾るときには綺麗に着飾らなくっちゃね……」

「ハァ……、我ながらいい仕事をしたわねぇ〜」
 うっとりと俺の顔を見詰めながら、頬を艶やかに染めて吐息を吐くキャスター。そっと、手鏡を俺に渡してくれた。
「えっと……確かに」
 最低限のメイクの筈だ。時間もさほど掛けられていない。それで居て、顔立ちが一気に華やいでいた。控え目に入れられたメイクに、そこだけは艶やかなパール系の口紅。
「全然変わるものだなぁ……」
 手鏡を覗き込んで感心する俺に苦笑するキャスター。
「さ、そろそろ時間でしょう。あまり待たせると管理者も他の子達も煩いわよ」
 化粧道具を片付けながらのキャスターに、俺は軽く抱きついた。
 何時も何時もお世話になってるから。
 年始めにこの位のサーヴィスは良いだろう、と。
「ぁ、ありがとう……。ぉ、お母さ、ん……」
 囁くような声なのはどうしようも無く照れくさいから。そして俺はリップの塗られた唇を微かにキャスターの頬に掠めさせた。
「じ、じゃあ、行ってきます!」
 そうして、俺は柳洞寺のキャスターの部屋から飛び出した。火照った頬に、新年の冷気が心地良い。
 さて、あんまり待たせても良くないし。急いで集合場所へと向かうとしよう。

「……き、きゃ〜〜〜〜っ。や、やったわメディア! あ、あの娘から、お、お母さんっ、って、お母さん、って! きゃ〜〜〜〜っ!!」
 背後から聞こえる盛大な嬌声というか歓声というか……恥ずかしいなぁ。

 見上げた元日の空は気持ちいいほど晴れ渡り。渡る風は穏やかに澄んでいて。
 知らず知らずに顔を綻ばせる俺。
「……今年もいい年で有りますように!」







 正月記念SSSでございます。もしも例のアレの士郎が元に戻ることなく、キャス子さんちの娘さんになっていたら、というシーンで捏造。他のキャラがどうしているとかは些末なことです。こういうシチュエーションは大好きです!
 スレのお年玉発言を受けて。お年玉なら正月にでしょう、と元日に書いてみたりしてみました。






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