会いたくて、会いたくて、涙が零れそうなほど、愛しくて。 もうどうしても、その思いを隠す事など出来なかった。 授業を終えて、机の上の道具を片付ける。 ハッと顔を上げると、もう先生は、足早に教室から出て行ってしまった後だった。 ずっとその姿を目で追っていたはずなのに、ふとした瞬間に見失ってしまう。 何故だかとても、悲しかった。 それでも急いで後を追う。 まだ先生の歩いた空気の残る、薄暗い地下の廊下を、先生の研究室に向かって小走りで進む。 段々動悸が速くなって、掌には、冷たい汗を握る。 先生、先生、先生、先生 ―――― もう、1秒だって待って居られなかった。 早く伝えなければ、壊れてしまいそうだった。 目的の部屋に辿り着いて、その大きな、重い扉をノックする。 「 ――― 開いている。 」 部屋の中から聞こえた声は、苦しいくらいに愛しい声。 不機嫌そうな、けれどその低く響くのが心地良い、先生の声。 軽く会釈をしてそっと部屋に入ると、先生は私の顔を一瞥して、表情を変えずに訊ねる。 「 何か、質問か? 」 先生と目が合う。 その深い黒の瞳に見据えられると、思わず怯んでしまう。 でも、負けるわけにはいかない。 思い直して、小さく首を振って、 「 いいえ、今日は、どうしても先生にお伝えしたいことがあるんです。 」 声が、震える。 でも、言わなければ。 もう、決めたのだから。 「 ・・・・・何だ、 」 先生が少し怪訝そうな顔で、訊き返す。 頭の中が真っ白になった。 震える声で、それでも精一杯、先生の目を見ながら、 「 私、スネイプ先生が好きなんです。 」 先生が、明らかに驚くのが分かった。 何を言っているのだと言わんばかりに、眉間に皺を寄せて、私を睨みつける。 「 ・・・・・どういうのだ、それは・・・・何かの冗談か。 」 「 っ・・・違います!・・・先生のことが、好きで、自分でも・・・ もう、どうしたらいいか、分からなくて・・・ 」 先生の責めるような言葉に、視線に、泣きそうになる。 この場をどう収拾をつけたらいいのか、分からない。 あとのことなんか、考えている余裕はなかった。 「 ・・・それで、我輩にどうしろと? 」 既に先生の顔から驚きの色は消え、元の冷たい声で訊いてくる。 私の様子など全く気にも止めていない、といった様子で。 「 ただ、好きだとだけ言われても、返答のしようが無いのだが? 」 言葉に詰まって下を向いてしまった私に、相変わらず表情の無い声が浴びせられる。 「 ・・・・・でも・・・ 」 「 でも? 」 振り絞るようにして、やっと声を出した私を、先生は冷めた瞳で見下ろす。 「 本当に・・・ただ、それを言いたかっただけで・・・聞いて欲しかっただけで・・・ 」 ――― そうなのだ。好きだから、どうしようというのではなく、 ただ、どうしても伝えたかった。先生に、聞いて欲しかった。私の気持ちを、知って欲しかった。 本当にただ、それだけで、だからどういう返事が欲しいかなんて、考えていなかった。 「 ・・・・・では、もう、用は済んだと? 」 用が済んだら出て行け、ということだろうか。 答えることが出来ないで、先生の顔を見上げるしかない私に、小さく溜息を吐いて先生は続けた。 「 ・・・言いたいことは分かった。つまり、その程度ということだな。 」 「 ・・・・その程度? 」 「 取り立ててどうということもない、ただ思うだけ、という程度の“好き”ならば、 こちらも真面目に取り合う必要はない、ということだ。違うか? 」 「 違います! 」 咄嗟に、大きな声で否定した。 “ ただ思うだけ ” というのは、確かに間違ってはいない。 けれど、だから “ その程度 ” なんて軽いもの、というわけではない。 違う、絶対に違う。 その誤解だけは、解かなければ・・・そう思っても、どう言えば良いのか分からない。 「 ・・・どう、違うと? 」 「 ・・・・上手く言えないですけど、 “ その程度 ” っていうのは・・・違います。 」 「 もっと上等なものだ、と言いたいのか? 」 「 ・・・・・ 」 「 ・・・・我輩の為に、死ねるか? 」 「 え?! 」 唐突にそう訊かれて、驚いて顔を上げる。 「 ・・・ものの喩えだ。 」 先生は、笑いもせずに淡々と言う。 「 そんなことは、考えたこともないだろう。所詮・・・ 」 「 死ねません。・・・先生の “ 為に ” は死ねません。でも・・・・、 先生になら、殺されても良い、とは思います。 」 ――― そんな言葉が返って来るとは予想していなかったのだろうか、 先生は、驚いた様子で、また、眉宇を顰めて私を見据えた。 私も、目を、逸らさなかった。 暫くして、先に視線を外して沈黙を破ったのは、先生の方だった。 「 そうか・・・なかなか、面白い・・・ 」 「 ・・・え? 」 「 応えてやろう、お前の気持ちに。 」 そう言って、先生は、初めて、微笑した。 【back】 |