静かな、静かな、夜。 室内を照らすランプの灯かりは、何処までも優しく、暖かい。 ―― 先生、私の事、好きですか? ―― 私の目の前で仕事をして居る先生に、何の脈絡も無く、訊いた。 先生は、ペンを動かす手を止めて、私の顔を見る。 部屋を包んで居た無音の時間が、途切れる。 先生は、眉間に皺を寄せて、少し困った様な顔で、軽く溜息を吐いた。 「 ・・・・何故、突然その様な事を訊く・・・。 」 「 答えて下さい。 」 「 言わせて、どうすると・・・ 」 「 聞きたいんです。先生の口から。 」 「 ・・・・・ 」 「 ・・・嫌ですか・・・? 」 「 ・・・・・・・ 」 「 ・・・・分かりました。いいです、嫌なら・・・ 」 「 好きだ。 」 「 ! 」 「 我輩は、・を好きだ。・・・・・・・・満足か? 」 「 ・・・・はい・・・ 」 私は、何だか可笑しくて、笑いながら返事をした。 先生も、半分呆れた様な顔をしながら、でも、微笑ってくれた。 そんな事は、訊く前から分かって居る。 先生が、ちゃんと「 好きだ 」と言ってくれる事くらい、私が1番良く分かって居る。 分かって居るのに ―― いや、分かって居るからこそ、そうやって訊いて、先生を困らせてみる。 私は、狡い。 でも、確かめたいのだ。 そうやって、先生が私の為に困ってくれる事が、嬉しくて仕方無いから。 嬉しくて、どうしようもなく幸せな気持ちになるから。 だけど、何時か、終わる時が来るのだろうか。 この居心地の良い部屋に、二度と入れなくなる時が、来るのだろうか・・・。 そう思ったら、怖かった。 物凄く、物凄く、怖かった。 そしてそれは、先生に訊くことは、出来なかった。 部屋に、静寂が戻った。 静かな、けれど暖かい時間が、また、流れ始めた。 【back】 |