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今日は朝から雨が降っている。
雨の日は、嫌いだ。 何だか気分が暗くなって、訳もなく不安になってくるから。 今も、目の前で仕事をしている、愛しい人を見ながら、底のない不安な気持ちに襲われる。 手を延ばせば、簡単に触れることの出来る場所に居るのに。 それなのに時々、無性に不安にかられてしまう。 雨が、激しく窓ガラスを打つ。 彼が黙って走らせるペンの音は、その音によって掻き消される。 ただ、聞こえるのは、激しい雨音だけ。 とりとめのない不安は、ますます私の頭の中を支配する。 考えなくてもいいことまで、次々と浮かんで止まらない。 行き場のない寂しさに、胸が痛くなる。 顔を上げて、彼の方を見る。 けれど、仕事に集中していて、気付いてはもらえない。 「・・・・・ルシウス・・・。」 小さく呼びかけても、それは雨音に溶けて、彼まで届かない。 涙が出そうになる。 どうしてこんな気持ちになるんだろう。 彼が結婚しているから? 私が子どもだから? こんな、先の見えない関係。 こんな、いつ終わってしまうかも知れない関係・・・・・・ だんだんと、不安な気持ちが大きくなるのは、 彼を好きな気持ちが大きくなっているからかもしれない。 だとしたら、私は、どうすればいいんだろう。 口に出したら、この関係が終わってしまうかもしれない。 ― あなたのことが、愛しくて愛しくてたまらないの。 わたしを一番、愛して欲しいの ― 絶対に、思ってはいけないこと。 途方もない、願い。 なのに、溢れてくる、想い。 「・・・・・・・・・・?」 突然、ソファから立ちあがった私に気付いて、ルシウスが顔を上げる。 私は、黙って彼の傍に立つ。 そして、何も言わないまま、ぎゅっと彼に抱きついた。 「・・・・・何の真似だ・・・・?」 「・・・・・仕事の邪魔。」 「・・・ほう・・・」 「ルシウスが全然構ってくれないから。・・・・寂しい。」 「・・・・・全く・・・仕方のない・・・」 ルシウスが小さく溜息をついて、羽ペンを置いた。 そして私は、キスをねだる。 抱き締められて、キスをしているときは、不安な気持ちが消えるから。 ルシウスの薫りに包まれて、頭の中が真っ白になる。 「・・・・っ・・・ん・・・」 咬みつくような激しいキス。 何かを考える隙間なんてない。 「・・・・少しの間くらい、辛抱できないのか?」 窒息しそうになるくらい、長いキスの後、 濡れた私の唇を親指で拭いながら、口の端に冷たい笑みを浮かべてルシウスが言う。 「・・・・・・」 私は、それには答えないで、また彼に抱きつく。 「・・・ルシウス・・・。」 「・・・・何だ?」 「私、ルシウスが大好きよ。」 「・・・知っている。」 そう言ったルシウスの表情は見えなかったけれど、 きっと、あの冷たい微笑みを浮かべてる。 ― 私、ルシウスが大好きよ ― その次の言葉は、言えずに飲み込んだ。 ― ルシウスは、私のこと、どれくらい好き? ― きっとそれは、この先もずっと言えないままで。 どんなに寂しくても、苦しくても、たち切ることなんて出来ない。 もう、私の心は、囚われてしまったから。 この冷酷な男を、涙が出るくらい、愛しいと思うから。 今日もまた、不安な気持ちを誤魔化すように、彼に抱かれる。 弱まることのない雨音を、頭の片隅に聞きながら。 【back】 |