■ Rany Blue ■


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今日は朝から雨が降っている。


雨の日は、嫌いだ。

何だか気分が暗くなって、訳もなく不安になってくるから。


今も、目の前で仕事をしている、愛しい人を見ながら、底のない不安な気持ちに襲われる。

手を延ばせば、簡単に触れることの出来る場所に居るのに。

それなのに時々、無性に不安にかられてしまう。





雨が、激しく窓ガラスを打つ。

彼が黙って走らせるペンの音は、その音によって掻き消される。

ただ、聞こえるのは、激しい雨音だけ。



とりとめのない不安は、ますます私の頭の中を支配する。

考えなくてもいいことまで、次々と浮かんで止まらない。

行き場のない寂しさに、胸が痛くなる。


顔を上げて、彼の方を見る。

けれど、仕事に集中していて、気付いてはもらえない。




「・・・・・ルシウス・・・。」




小さく呼びかけても、それは雨音に溶けて、彼まで届かない。


涙が出そうになる。

どうしてこんな気持ちになるんだろう。


彼が結婚しているから?

私が子どもだから?

こんな、先の見えない関係。

こんな、いつ終わってしまうかも知れない関係・・・・・・


だんだんと、不安な気持ちが大きくなるのは、

彼を好きな気持ちが大きくなっているからかもしれない。


だとしたら、私は、どうすればいいんだろう。


口に出したら、この関係が終わってしまうかもしれない。




― あなたのことが、愛しくて愛しくてたまらないの。

 わたしを一番、愛して欲しいの ―




絶対に、思ってはいけないこと。

途方もない、願い。

なのに、溢れてくる、想い。





「・・・・・・・・・・?」


突然、ソファから立ちあがった私に気付いて、ルシウスが顔を上げる。

私は、黙って彼の傍に立つ。

そして、何も言わないまま、ぎゅっと彼に抱きついた。


「・・・・・何の真似だ・・・・?」


「・・・・・仕事の邪魔。」


「・・・ほう・・・」


「ルシウスが全然構ってくれないから。・・・・寂しい。」


「・・・・・全く・・・仕方のない・・・」



ルシウスが小さく溜息をついて、羽ペンを置いた。

そして私は、キスをねだる。

抱き締められて、キスをしているときは、不安な気持ちが消えるから。

ルシウスの薫りに包まれて、頭の中が真っ白になる。



「・・・・っ・・・ん・・・」



咬みつくような激しいキス。

何かを考える隙間なんてない。



「・・・・少しの間くらい、辛抱できないのか?」


窒息しそうになるくらい、長いキスの後、

濡れた私の唇を親指で拭いながら、口の端に冷たい笑みを浮かべてルシウスが言う。


「・・・・・・」


私は、それには答えないで、また彼に抱きつく。



「・・・ルシウス・・・。」


「・・・・何だ?」


「私、ルシウスが大好きよ。」


「・・・知っている。」



そう言ったルシウスの表情は見えなかったけれど、

きっと、あの冷たい微笑みを浮かべてる。



― 私、ルシウスが大好きよ ―



その次の言葉は、言えずに飲み込んだ。



― ルシウスは、私のこと、どれくらい好き? ―



きっとそれは、この先もずっと言えないままで。



どんなに寂しくても、苦しくても、たち切ることなんて出来ない。

もう、私の心は、囚われてしまったから。

この冷酷な男を、涙が出るくらい、愛しいと思うから。



今日もまた、不安な気持ちを誤魔化すように、彼に抱かれる。



弱まることのない雨音を、頭の片隅に聞きながら。







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