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気になっている、ことがある。
それは、ずっとずっと、以前から。 最初は、このモヤモヤした気持ちが何なのか、解らなかった。 けれど、その正体に気付いてしまってからは、それはしぶとく私の心に居座り続けた。 それどころか、日に日に大きくなってゆくようにさえ思える、この気がかり。 ― 先生、私は・・・・・・ ― 「・・・?」 不意に、名前を呼ばれて、私の思考は中断された。 「・・・まだ、起きているのか?」 今は、もう真夜中。私が居るのはベッドの中で。 そして、すぐ隣で私を呼んだのは、私の一番愛しい人で。 その腕の中で、今日も静かな眠りに落ちているはずだった。 例の気がかりが、襲って来さえしなければ・・・。 「・・・ごめん・・・起こした・・・?」 「いや・・・・何だ、眠れないのか?」 「・・・そんなこともないんだけど・・・ちょっと考え事してて・・・。」 「考え事なら朝にしろ。」 先生は眠そうに、軽く溜息をついてそう言うと、子どもをあやすように私の髪を撫でる。 「寝不足で、授業に集中出来なくなると困る。」 「・・・・・こんなことしながら、そんな教師らしいこと言わないでよ。」 「そんなものは関係無い。何時如何なる時も、我輩はお前の教師なのでな。」 ― 教師・・・・?・・・じゃあ、私は、先生の、“ 生徒 ” ・・・? ― ずっと、気になっていたこと。 ― 私は、先生の、何・・・? ― 世間一般では、二人の関係は “ 恋人同志 ” というのだろうか。 抱き締められて、キスをして、こうして共に夜を過ごす。 これ以上望むことなんかないくらい、幸せだと思う。 それなのに、こんなことを気にする私は贅沢なのだろうか。 だけどどうしても心が晴れないのは、先生の気持ちが見えないから。 抱き締めてくれる。キスもしてくれる。抱いてもくれる。 でも、先生はいつも、自分のことはあんまり話さないし、気持ちも表に出さない。 だから、気になる。 先生にとって、私は一体どういう存在なのだろう。 「・・・・・じゃあ私は、いつでも先生の生徒なの・・・?」 「違うのか?」 「・・・・先生にとって、私は “ 生徒 ” ?・・・先生はただ、なついてくる生徒を可愛がってるだけなの・・・?」 「・・・・何を訳の分からぬことを、」 「訳分かんないのは先生の方だよ!」 つい、大きな声を出してしまい、先生はほんの少し驚いた顔で私を見る。 だけど、止まらない。 「だって、先生、いつも何考えてるのか分かんない。私のこと、どう思ってるのか分かんない。 私は・・・先生の、ただの “ 生徒 ” なの・・・?」 一気に、まくし立てた。 でも、先生の表情はやっぱり変わらない。 少しの沈黙を置いて、先生が溜息をついて口を開いた。 「まさか・・・そんな下らんことを考えていたのか?」 「っ・・・ひどい!下らなくなんかないよ!」 「下らん。」 「私にとっては大問題だもん!」 「我輩にとっては問題にもならぬ。」 「・・・やっぱり先生、私のことなんて・・・」 「恋人だ。」 「・・・・え?」 「・・・お前は我輩の、生徒であって、恋人だ。 そして、生徒でなくなってからも恋人であることは変わらないで欲しい。 ・・・と思っているのだが・・・不服か?」 思わず、耳を疑った。 まさか、先生の口から “ 恋人 ” なんていう言葉が出てくるなんて。 そんな風に、思ってくれていたなんて。 不服どころか、嘘でも嬉しい。 ・・・・・なんて、素直に言うのは何だか悔しいから言わないけど。 「そんなの・・・・言ってくれなきゃ、分かんないよ。」 「・・・・わざわざ進んで言うようなことでもないであろう。」 「でも、言わないと、伝わらないよ。」 「・・・生憎、自分からそのようなことを喋るのは苦手なのでな。・・・・・だが、お前が訊けば、話す・・・。 そのように抱え込む前に・・・不安があるなら言えばいい。」 そう言って、先生は私を抱き締めた。 先生の体温が心地良くて、今までのモヤモヤが、嘘みたいに無くなった。 いつも見えなくて不安だった先生の気持ちが、少し見えて、嬉しかった。 自分がどうしようもなく子どもなのは分かっているけど、 やっぱり不安なものは不安だし、嬉しいものは嬉しい。 私はまどろみながら、そんなことを考えていた。 いつも私を不安にさせる、だけど、言葉一つで嘘みたいに幸せな気持ちにしてくれる、 愛しい愛しい “恋人 ” の腕の中で・・・・。 【back】 |