■ 恋人 ■


----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

気になっている、ことがある。

それは、ずっとずっと、以前から。

最初は、このモヤモヤした気持ちが何なのか、解らなかった。

けれど、その正体に気付いてしまってからは、それはしぶとく私の心に居座り続けた。

それどころか、日に日に大きくなってゆくようにさえ思える、この気がかり。



  ― 先生、私は・・・・・・ ―





・・・?」



不意に、名前を呼ばれて、私の思考は中断された。



「・・・まだ、起きているのか?」



今は、もう真夜中。私が居るのはベッドの中で。

そして、すぐ隣で私を呼んだのは、私の一番愛しい人で。

その腕の中で、今日も静かな眠りに落ちているはずだった。


例の気がかりが、襲って来さえしなければ・・・。




「・・・ごめん・・・起こした・・・?」


「いや・・・・何だ、眠れないのか?」


「・・・そんなこともないんだけど・・・ちょっと考え事してて・・・。」


「考え事なら朝にしろ。」



先生は眠そうに、軽く溜息をついてそう言うと、子どもをあやすように私の髪を撫でる。



「寝不足で、授業に集中出来なくなると困る。」


「・・・・・こんなことしながら、そんな教師らしいこと言わないでよ。」


「そんなものは関係無い。何時如何なる時も、我輩はお前の教師なのでな。」




  ― 教師・・・・?・・・じゃあ、私は、先生の、“ 生徒 ” ・・・? ―




ずっと、気になっていたこと。




  ― 私は、先生の、何・・・? ―




世間一般では、二人の関係は “ 恋人同志 ” というのだろうか。

抱き締められて、キスをして、こうして共に夜を過ごす。

これ以上望むことなんかないくらい、幸せだと思う。

それなのに、こんなことを気にする私は贅沢なのだろうか。



だけどどうしても心が晴れないのは、先生の気持ちが見えないから。



抱き締めてくれる。キスもしてくれる。抱いてもくれる。

でも、先生はいつも、自分のことはあんまり話さないし、気持ちも表に出さない。

だから、気になる。

先生にとって、私は一体どういう存在なのだろう。




「・・・・・じゃあ私は、いつでも先生の生徒なの・・・?」


「違うのか?」


「・・・・先生にとって、私は “ 生徒 ” ?・・・先生はただ、なついてくる生徒を可愛がってるだけなの・・・?」


「・・・・何を訳の分からぬことを、」


「訳分かんないのは先生の方だよ!」



つい、大きな声を出してしまい、先生はほんの少し驚いた顔で私を見る。

だけど、止まらない。



「だって、先生、いつも何考えてるのか分かんない。私のこと、どう思ってるのか分かんない。

  私は・・・先生の、ただの “ 生徒 ” なの・・・?」



一気に、まくし立てた。

でも、先生の表情はやっぱり変わらない。



少しの沈黙を置いて、先生が溜息をついて口を開いた。



「まさか・・・そんな下らんことを考えていたのか?」


「っ・・・ひどい!下らなくなんかないよ!」


「下らん。」


「私にとっては大問題だもん!」


「我輩にとっては問題にもならぬ。」


「・・・やっぱり先生、私のことなんて・・・」




「恋人だ。」




「・・・・え?」


「・・・お前は我輩の、生徒であって、恋人だ。

  そして、生徒でなくなってからも恋人であることは変わらないで欲しい。

  ・・・と思っているのだが・・・不服か?」




思わず、耳を疑った。

まさか、先生の口から “ 恋人 ” なんていう言葉が出てくるなんて。

そんな風に、思ってくれていたなんて。

不服どころか、嘘でも嬉しい。

・・・・・なんて、素直に言うのは何だか悔しいから言わないけど。




「そんなの・・・・言ってくれなきゃ、分かんないよ。」


「・・・・わざわざ進んで言うようなことでもないであろう。」


「でも、言わないと、伝わらないよ。」


「・・・生憎、自分からそのようなことを喋るのは苦手なのでな。・・・・・だが、お前が訊けば、話す・・・。

  そのように抱え込む前に・・・不安があるなら言えばいい。」




そう言って、先生は私を抱き締めた。

先生の体温が心地良くて、今までのモヤモヤが、嘘みたいに無くなった。

いつも見えなくて不安だった先生の気持ちが、少し見えて、嬉しかった。



自分がどうしようもなく子どもなのは分かっているけど、

やっぱり不安なものは不安だし、嬉しいものは嬉しい。



私はまどろみながら、そんなことを考えていた。

いつも私を不安にさせる、だけど、言葉一つで嘘みたいに幸せな気持ちにしてくれる、

愛しい愛しい “恋人 ” の腕の中で・・・・。






【back】