■ Dear Sound ■


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あの人の、声が好き。




ポツリとたった一言でも、その低い音は、低く、心地よく響く。
どこに居ても、何をしていても、絶対に、聞き間違えたりしない。
耳に届いた瞬間、反射的にその声のした方を振り返る。




すると、そこには、彼が居る。




陰気で、冷たくて、嫌われ者の、魔法薬学教師。
私には、そんな評判なんて関係ない。
いっそ、みんなもっと嫌えばいい。
もっともっと、あの人のことを嫌ってくれればいい。
そうすれば、私だけが、あの人のことを好きでいられるから。
あの深く響き渡る声を追いかけて、無意識にその姿を探すのは、私だけで、いい。




いつからこんなに、執着するようになったんだろう。
彼のことを、何も知らないというのに。
授業以外ではほとんど顔を合わせることなどない。
いつも彼が、何を考えているのかも、あの暗闇のような瞳に、何を映しているのかも、
何一つ、知りはしないというのに。




吸い寄せられるように、呪文を唱える声に惹かれて、気が付けば、いつも目で追っていた。
その声で、私の名前を呼んで欲しい。
私だけのために、響いて欲しい。
そう、考えただけで、胸は高鳴った。




「スネイプ先生、お話ししたいことが、あります」




ある日の放課後、先生の研究室のドアを叩いた。
見ているだけでは、何も始まらない。
望みを、現実のものにしたいと、本気でそう思ったから。
想いは、もうとっくに、飽和状態だったから。




「何だ、お前は」
「レイブンクロー寮6年、です」
「……何だ、話とは」




初めてだった。
先生が、私を見て、私に向かって、言葉を紡ぐ。
それは随分とそっけないものだったけれど、私を喜ばせるには十分だった。
嬉しさなのか、緊張なのか、手が、足が、小さく震えた。




「あの、突然なんですけど、私、スネイプ先生のことが、好きなんです」
「……何だと?」
「だから…、先生のことを、好きなんです。とても」
「………それだけか?」
「…はい」
「……下らんな」
「………すみません」




先生の返事を、予想していたわけではないけれど、こんなにあっけないと流石に驚く。
これまでにないくらい間近で聞くその声は、いつも以上に深く響く。
私の心を、震わせる。
非道い言葉を吐かれているにもかかわらず、先生の落とす一言一言の余韻に、私は浸っていた。




「用が済んだなら帰れ」と言う先生に、言葉を返すこともできず、言われるままに、背を向けた。
けれど、ドアノブに手を掛けたとき、不意に、後ろから先生の声が降ってきた。




「…お前が、いつも我輩を見ていた理由が分かった」
「……!!」
「覚えておこう、ミス・」




先生が、微笑った。
望みが、現実となるのは、近からず、けれどそう遠くはない未来。


(2004.4)





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