■ indian summer ■


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会いたかったんだ、君に。



探していたんだ、ずっと。



それなのに、気付かなかった。



こんなにも近くに、君はずっと、居てくれたんだ。


















「お前等に何が分かるって言うんだ!!」





空が青く澄んだ、春のある日の昼下がり、そんなのどかな天候とはおよそ似つかわしくない、
乱暴な怒鳴り声が、室内に響き渡った。
その場に居た者全員が、一瞬にして水を打ったように静まり返る。
そして、視線は、その声の主に、注がれる。





ここは、スリザリン寮の談話室。
ドラコ・マルフォイは握り締めた両手を小刻みに震わせながら、二人の友人を睨み付けていた。
今にも殴りかかりそうな形相で睨まれたその二人は、気の毒に、震え上がって言葉を失っている。





ドラコは、暫く無言で二人を睨みつけていたが、周囲の視線にばつが悪くなったのか、
チッと舌打ちをして、荒々しく扉を閉めて談話室から出て行った。
友人二人は、慌ててその後を追いかけようとしたが、「ついてくるな!」と一喝されて、
困惑した表情でお互い顔を見合わせて居た。





―――― 腹が立つ。うざったい。“あいつ”も、あいつらも、みんな……





ドラコの苛立ちの原因は、その日の魔法薬学の授業での出来事だった。
数日前に受けた小テストが返って来て、その点数が、彼の最も嫌う ――嫌うというより“憎む”
と言った方が適切だろうか―― ハリー・ポッターよりも5点低かったのだ。





からかってやろうと、無理矢理取り上げたポッターの答案。
そこに書かれた点数を見た時、ドラコは我が目を疑った。
自分も、自信のあった今回の小テスト。まさか、いつも馬鹿にしているグリフィンドールの人間、
しかもハリー・ポッターに負けるなんて。
こちらを憎々しげに睨むポッターに、答案をぐしゃっと丸めて突き返した。





―――― どうして、僕が、あんな奴に。挙げ句、クラッブやゴイルに哀れまれるなんて。





「ドラコ……」





苛立ちを全身にみなぎらせて足早に歩くドラコを、後ろから呼び止める者が居た。
ドラコは、いまいましげに振り向いた。
そこに立っていたのは、悲しそうな目をした一人の少女だった。
。ドラコと同い年で、同じくスリザリン寮に所属している。





「……なんだ、お前も、僕を馬鹿にしに来たのか?」
「違う!」
「じゃあ、何だ。さっき、見ていたんだろう?談話室で。」
「何をそんなに、怒っているの?」
「関係ないだろ、お前に!何なんだよ、放っといてくれ!」





ドラコに怒鳴られて、はビクっと一瞬ひるみそうになったが、ドラコの瞳を真直ぐに見つめ返した。
こう言われることは、十分予想していた。けれど、は追いかけずにはいられなかった。
他人を傷付ける言葉を吐きながら、誰よりも傷付いているように見えたのは、ドラコだったから。





「放っとけない……っ!関係ないかもしれないけど、放っとけない!」
「お前まで、同情するのか?もう、たくさんだ!」
「同情なんかじゃ……」
「同情だろう!そうでなければ哀れみか?同じ事だ。」
「……っ」
「………」





言葉が、途切れた。
ドラコは、踵を返して、また歩き出そうとした。
と、何かがその行動の邪魔をした。
ドラコが咄嗟に振り向くと、そこには、震える手で、ドラコのローブを握りしめるの姿があった。





「……放せ。」
「……」





ドラコの言葉に、は黙って首を横に振る。
今にも泣き出しそうな顔で、けれど、ローブを握る手は、きつく、きつく、握りしめられていた。





「何なんだよ、お前……」
「………」
「もう、放っとけばいいだろ。僕は、お前に、あんな非道いことを言ったんだぞ?」
「………」
「……放せ、ローブが皺になる。……逃げないから、放せ。」





ドラコの言葉に、は顔を上げた。
視線の先には、相変わらず不機嫌そうなドラコの顔がある。
けれど、そこには、さきほどのような痛々しさや激しい怒りの色は見えなかった。
どこか呆れたような顔で、自分より少し背の低いを見下ろして居た。

はゆっくりと、握り締めていた手を、緩めた。





「どうしてそんなに、僕に構う?……僕に、そんな価値ないだろ?……無意味だろ?そんなの。」





そう、分かって、いるんだ。
ポッターは、悪くない。クラッブも、ゴイルも、誰も、悪くない。
悪いのは、誰より汚いのは、僕自身 ――――
蔑みの言葉を彼等に投げつける度、それは、傷となって、はね返ってくる。
けど、今さら、もうどうしようもない。もう……





「そんなこと、関係ない!意味とか、価値とか……そんなの、どっちでもいいんだよ!」





の言葉に、ドラコは一瞬耳を疑った。
価値がなくてもいい?無意味でもいい?
そんなことは、今まで10年ちょっと生きてきたなかで、全く考えたことがなかった。
むしろ、全てを価値や意味で判断してきた。
そんなドラコに、の言葉は、すぐには理解できなかった。
けれど……





―――― 何の価値もなくても、追いかけて来た……追いかけて来てくれた……





ドラコは、何か言いかけたが、出かかった言葉を飲み込んで、さっき向かっていたのとは反対方向へ歩き始めた。
が慌てて追いかける。




「ドラコ……っどこ行くの?」
「……戻らないのか?」
「……え?」
「談話室。」
「……!」





ドラコはより数歩先を歩いていたので、にはその表情は見えなかった。
その顔から苛立ちは消えていて、ほんの少し、涙目になっていたことを、は知らない。









会いたかったんだ、君に。



探していたんだ、ずっと。



そんな言葉をくれる君を、愛しいと思ったんだ ――――











(2004.4.17)






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